“経済の歯車”から脱け出そう

―― 長時間労働の弊害は日本でもさかんに指摘されていますが、フランスでは、既に改善が進んでいるのでしょうか。

ガブリエリ いえ、まだまだ不十分です。「労働時間より質が大事」という考えは、社会全体にまでは浸透していません。だから、私たちのような活動が必要なんです。

 実際、「法律や規則のうえで既に男女平等になっているのに、これ以上何をする必要があるの?」と考える男性は多いです。しかし、法律上平等であるだけでは不十分で、夜の会食や飲み会ありきの働き方など、そういったことも変えていかなければいけない。それには、まだまだ時間がかかると思っています。

―― 先ほど「男性が自己規制を行っている」という話がありました。日本でも、例えば男性は、本当は育休をとりたいのに、職場の空気を読んで「どうせ取れない」と諦めてしまうことがあります。でも会社のトップや管理職のほうから呼びかけてくれたら、男性も働きやすくなるでしょうね。

ガブリエリ そうです。今までのルールを変え、男性も女性も平等にチャンスがある状態を実現することは、男性にとってもメリットがあることなのです。「会社にすべての時間を捧げよ」という今までのやり方は、男性を一人の人間ではなく、“経済を回す歯車”にしてしまっていた。しかしこれからの理想は、「男性が仕事でも家庭生活でも成功できるようにする」ことです。

―― 企業のルールや風土を変えることは、容易ではありません。変化を起こすためにはどんなアプローチが有効でしょうか。

ムゾン 男女の能力を等しく生かすことが企業の“利益”につながる、ということをしっかり訴えなければなりません。企業は営利を追求する組織ですから、平等とか正義とか、理想だけを訴えても動きません。あくまで経済的メリットがあることを軸に、企業を説得する必要があります。

ガブリエリ 実際、「男女両方に機会を与える会社はパフォーマンスが良い」ということはデータではっきり示されています。企業にとってそのほうが利益になるのだ、ということが分かってもらえれば、道は拓かれると考えています。新卒採用のとき男女半々いた社員が、25年後に男性しか要職に残っていなかったら、企業は雇った半分のリソースを無駄にしたということ。経営者が無能だったということと同義だと、もっと理解してもらいたいですね。

 そしてまた、変化を起こすためには、男性の口から男性に向かって語りかける、ということも重要なポイントです。女性の口から訴えると、「フェミニストだから女性にとって利益になることを訴えているだけだろう」と、十分には聞き入れてもらえません。だから私は「Happy Men Share More」という男性のネットワークを作って、男性同士の意見交換や、企業に対する啓蒙活動を行っているのです。

ジュリア・ムゾンさん(左)とアントワヌ・ド・ガブリエリさん(右)
ジュリア・ムゾンさん(左)とアントワヌ・ド・ガブリエリさん(右)