日経DUAL読者の皆さんは、フランスの働く女性について、どのようなイメージをお持ちでしょうか? 素敵なフランス人女性を紹介する本や雑誌の影響で、“家庭も仕事も存分に楽しむ女性”を思い浮かべる人が多いかもしれません。

 しかし実際は、フランスの多くの女性はキャリアと家庭を両立させることの困難に直面しています。長時間労働が問題視されるなど、日本と共通する課題も多く抱えています。

 今回は、フランスでそれらの問題に取り組んでいる2人の男女にお話を聞きました。ジュリア・ムゾンさんとアントワヌ・ド・ガブリエリさんです。

 前編となる今回は、フランスの男女が抱えるステレオタイプの問題や、女性のキャリア実現を阻む壁、家事・育児分担の事情についてお伝えします。

前編:フランスも男性優位の“上から目線”社会だった ←今回はココ!
後編:フランスの“ガラスの天井”の正体は男性の偏見



ジュリア・ムゾン


「女性とパワー社」創立者。財務省でキャリアをスタートさせた後、意欲に満ちていても女性がキャリアを築くことが難しい現実を痛感する。フェミニストの団体で活動の後、2012年に29歳で女性リーダー養成のための企業「女性とパワー社」を設立。女性政治家と女性管理職の意見交換とネットワークの場を提供している。一児の母。



アントワヌ・ド・ガブリエリ


「ハッピーメンネットワーク」創設者。マーケティングとコンサルティング業界で勤務の後、2000年にダイバーシティ経営教育のための企業「コンパニエロス」を設立。2013年、仕事における男女平等についての意見交換と研修のサークル「Happy Men Share More(ハッピーメン・シェアモア)」を設立。12の企業による支援のもと、男女の雇用比率や仕事における平等の推進のために活動。男女とも、仕事と私生活のいずれも犠牲にすることなく活躍できる社会の実現を目指している。

アントワヌ・ド・ガブリエリさん(左)とジュリア・ムゾンさん(右)。フランス大使館にて
アントワヌ・ド・ガブリエリさん(左)とジュリア・ムゾンさん(右)。フランス大使館にて

フランスでも女性は管理職になりにくい

日経DUAL編集部(以下、――) 最初に、現在のお二人の活動について教えてください。

ジュリア・ムゾンさん(以下、敬称略) フランスの政界における、女性政治家のリーダーの登場を妨げる“ガラスの天井”を打破するために活動しています。2012年に会社を設立し、女性政治家と企業の女性管理職の意見交換の場を提供しています。

アントワヌ・ド・ガブリエリさん(以下、敬称略) 私は「企業の中でもっと女性が自分の能力を発揮できるようにするにはどうしたら良いか」という問題に取り組んでいます。そのための経営教育や企業に対する啓蒙活動を行っています。

―― フランス人女性というと、日本ではポジティブなイメージで語られることが多く、女性が働きやすい国なのでは? と思ってしまいます。違うのでしょうか。

ムゾン 確かにフランスでは、女性が働くことは当たり前のことであって、働くこと自体は難しくありません。問題はその中身です。女性は男性と比べて賃金が低かったり、管理職になかなかなれなかったりします。本人の希望に反してパートタイムの仕事をしている人の割合も高く、多くの問題が存在しています。

ガブリエリ フランスの企業では、経営者や管理職層はほとんど男性で占められています。女性が男性と同じように責任ある立場につけるかと言えば、程遠いのが現状です。その根底には、まだまだ男女の役割に対する根強いステレオタイプがあると考えています。

―― フランスにおけるステレオタイプとは、どんなものですか。

ムゾン 私は、子どものころ「女の子は献身的であれ、他人を助けよ」と言われて育ちました。物事を主になって引っ張るのではなく、誰かを支える立場であることを励行されたのです。こうしたステレオタイプは教育のかなり初期段階で始まっており、それを示すこんな言説があります。「お腹の中にいる赤ちゃんに対して、性別が女の子だと分かると人は『気まぐれな子』と思い、男の子だと分かると『力強い子』と思う」と。赤ちゃんの時点から、性別によって期待される役割が違うんですね。

 フランス人男性は確かにレディ・ファーストで、女性に対して優しく振る舞います。しかし、そこに女性に対する尊敬があるかといえば、必ずしもそうではありません。「女性はか弱くて守るべきものだ」ということを、上から目線で捉えている男性も多くいます。そして、企業でも政治の世界でも、男性優位的な考え方が幅を利かせているのが現実です。

ガブリエリ 男性は男性で、仕事において、いついかなるときも企業の要請に応えなければならない、すべてのエネルギーを会社に注がなければならない、といった呪縛の中に置かれています。これを変えていかなければならないと考えています。