自分の意見をはっきり伝えることの大切さ

 ホームステイが始まる前に、ネットでドイツについて調べていたら、「ドイツ人は塩ラーメンが好き」という情報を見かけました。いそいそと塩ラーメンを買いに行き、冷蔵庫に入れておきました。

 ところがある日、Aくんとラーメンの話題になったときに「僕はとんこつラーメンが大好きです。塩ラーメンはあまり好きではありません」と言うではありませんか! 冷蔵庫の塩ラーメンを、そっと奥に押し込んだのは言うまでもありません(出す前に聞けてよかった)。日本人だって、全員おすしが好きなわけではないし、一般的な情報を調べる必要なんてなかったんだと実感しました。

 他にも、「梅干しが大好き」「納豆はどうしても食べられない」などと、はっきり好みを言ってくれたり、何かの話題のときには「自分はこう思う」としっかり意見を言ったりするところも素晴らしかった。「実際はどう思っているのかなあ」なんて気をもむ必要がないので、ホストファミリー宅としてもとても助かりました。

 日本人の感覚だと、遠慮して相手に合わせて、つい「なんでも好き」と言ってしまいがち。でもそうではなく、様々な場面で臆することなく、自分の意見を伝えられるようにわが子もなってほしいと感じました(ちなみにとしまえんの帰りにとんこつラーメンを食べに行き、とても喜んでもらえました)。

 今、ホームステイから少し時間が経ってみて、Aくんと話した様々な会話が、どの部分が日本語で、どの部分が英語だったのか、あまり思い出せません。でも、話した内容は心に残っています。人と人のコミュニケーションにおいて大事なことは、何の言語で話すかではなく、「どう考えて何を伝えるか」なのだと心から思いました。もちろん英語が話せればベストですが、仮に英語が拙くても、“話す中身”が大事だと感じたことは、今後の子育ての方向性を考えるうえでも大変参考になりました。

 またAくんに対して感じた、「どこに行ってもその場になじめること」「相手のことを受け入れられるおおらかさ・優しさ」「楽しくコミュニケーションができるような、愛されるキャラクター」の重要性も身に染みました。Aくんのように楽しくコミュニケーションができ、国を超えた交流ができる人になれれば、世界は確実に広がっていく。わが子の勉強の出来不出来には目をつぶって(笑)、長い目で考えて、子どもの将来を考え、応援していきたいと思いました。

かけがえのない3週間の終わり

 お別れの日が2日後に迫った日の夕食後のこと。息子が突然寂しくなったようで、Aくんの背中に突っ伏して「さびしい…」と肩を震わせて泣きました。家族みんな、同じ気持ちでした。

 Aくんは弟を見るような優しいまなざしで、「また会えるよ」と息子に言ってくれました。その2日後、私たちはお互いに手を振って、笑顔で別れました。

 わが家にとってかけがえのない日々だった3週間。和室に置いた簡易ベッドを片付けていたら、「いつでも来られるように、ベッドを置いておきたいくらいだね」と誰ともなく口にしました。そしてAくんが過ごした部屋は、今までの和室に戻りました。

 海外旅行も楽しいものですが、一時的ではあるけれど、外国の人と家族になるという経験はとても貴重なものでした。子どもたちは「楽しかった」「少しだけドイツ語を覚えた」「お別れがさみしい」「また会いたい」というシンプルな反応だったけれど、この夏の3週間の経験が、これからの自分の考え方や生き方にじわじわと染み込んでいくのではないかと思っています。

 以上、わが家の「初めてのホームステイ」体験記を読んでくださってありがとうございました。もしかしたら、「どうしたらホストファミリーになれるのか」など気になった方もいるかもしれません。そこで、今回お世話になったホームステイの受け入れ&派遣団体に、ホストファミリーになるメリットや注意点、共働き家庭でも大丈夫?などの話を聞いてきました。ぜひ次回もご覧ください!

Aくんがいなくなった後の和室。寂しくて、ベッドを片付けるのが少しためらわれました
Aくんがいなくなった後の和室。寂しくて、ベッドを片付けるのが少しためらわれました

(取材・文・写真/西山美紀)