DVに関して子どもたちは発言を聞いてもらえないことが多い

 タイトルにある「ジュリアン」は11歳の男の子の名前から取ったもので、映画はこの少年の視点を描くシーンが多くあります。これについて、監督の発言をいくつかご紹介します。

 「子どもたちのセリフがたいへん少ないのは、それこそがこのテーマの本質だからです。ドメスティックバイオレンスの事例では、子どもたちはほとんど声を聞いてもらえません。話をしても、耳を傾けてもらえないことが多いのです」

 「家庭内で暴力が振るわれる環境で育った男の子の発達には、2つの顕著な傾向があります。その暴力を再生産するか、あるいは暴力に対して常に身構えて、過度に警戒するようになるかのどちらかなのです。ジュリアンは後者です」

 映画では、妻に未練がある夫が、隔週末を共に過ごすジュリアンを利用して妻と話そうとしたり居場所を探ろうとしたりします。母親を暴力から守るために11歳の少年が必死で嘘をつく様子がとても現実味を感じる切ないものでした。

 初の長編映画となった本作で、ルグラン監督はベネチア国際映画祭監督賞を受賞しました。大げさな演出やBGMは一切なくても伝わってくる恐怖感は、質の高いサスペンス映画でした。フランスでは40万人が見てヒットし、多くの人が驚きの感想を寄せたそうです。

 試写会のクライマックスに近いシーンでは、隣の席の男性が「え!」と声を上げるのを聞きました。恐らく、家庭内暴力がこのような方向に向かうことを、この方はご存じなかったのだろう、と思います。国や制度を超えて、日本の親にも伝わるところの多い映画でした。当事者に近い方はもちろん、DV防止・被害者救済などの政策に関わる方にもぜひ見ていただきたいです。

「ジュリアン」
2019年1月25日(金)よりシネマカリテ、ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開

配給:アンプラグド
©2016 – KG Productions – France 3 Cinéma
監督・脚本:グザヴィエ・ルグラン 製作:アレクサンドル・ガヴラス 撮影:ナタリー・デュラン
出演:レア・ドリュッケール ドゥニ・メノーシェ トーマス・ジオリア マティルド・オネヴ
2017年/フランス/93分/原題:Jusqu’a la garde/カラー/5.1ch/2.39:1ビスタ
日本語字幕:小路真由子 後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本