OECDの調査(2018年)によると、日本人の睡眠時間は加盟国中ワースト1位。また、子育て世代の働く女性の睡眠時間は短いといわれています。そこで、日経DUALでは睡眠に関するオンラインセミナーを開催。第1部では米国スタンフォード大学 医学部精神科教授の西野精治さんをお招きして、睡眠の役割や睡眠不足が引き起こすリスクを伺うとともに、睡眠に悩む方の対処法も解説していただきました。また、第2部では子どもの睡眠スペシャリストで熊本大学名誉教授の三池輝久さんに、乳幼児の睡眠と生活リズムの重要性について教えていただきます。

【第1部】
日本人の睡眠はOECD加盟国の中でワースト1位?

――日本は睡眠が軽視されている国という話があります。実際のところどうなのでしょう?

西野さん(以下、西野) OECDの調査によると、日本人の睡眠時間は世界で1位、2位を争う短さです。NHKが毎年行っている調査によると、現代人の平均睡眠時間は60年代から比べて1時間近く短くなっています。昔は22時前に寝る成人が6割いたのが、今は2割。大人が夜型になると、子どもにも同じような傾向が見られ、睡眠時間も1時間ほど短くなっています。

――お子さんの睡眠時間も短くなっているのですね。

西野 はい。人間は第二次性徴期以降、女性ホルモンや体温などが睡眠に影響を与えるので、睡眠時間に男女差があってもおかしくなく、実際に欧米では女性の方が20~30分長く眠るそうです。ところが、日本の働く女性の睡眠時間は世界で一番短い。これは、文化的、社会的な側面が大きいと思います。もうひとつ、都会に住む人の平均睡眠時間が短い傾向にあります。東京では平均5.59時間と6時間を切っている。理想の睡眠時間は平均7.21時間となっていて、そのギャップが1.5時間以上あるんです。

――では、睡眠の役割について解説をお願いします。

西野 50年代に、寝ている間も活発に脳が活動している「レム睡眠」が発見されたのをきっかけに睡眠研究が始まりました。まだ新しい学問ですが、睡眠が果たすさまざまな役割が分かってきています。

 まず、記憶を整理して定着させる。睡眠時に成長ホルモンが分泌されることも分かっています。成長ホルモンというと子どもの体の発育に関わるイメージですが、大人や高齢者にも分泌されていて、細胞の修復が行われたり、副交感神経を優位にして体を休めたりします。十分な睡眠をとらないと免疫力が下がり、ワクチンを打っても抗体が十分にできないことも考えられます。また、脳は使えば使うほど脳内に老廃物が溜まるので、その除去も睡眠中に効果的に行われていることが分かっています。ですから、適切な睡眠をとらないとさまざまな疾患リスクが高まります。

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