【第2部】
子どもの心身発達を支える生物リズム

――第2部では熊本大学名誉教授の三池輝久さん(以下同)と、子育て世代代表ということで、「日経XWOMAN」アンバサダーで日本おひるねアート協会 代表理事の青木水理さんにお越しいただきました。まずは、三池先生に乳幼児の睡眠についてお伺いしていきたいと思います。

三池さん(以下、三池) 最初にお話ししたいのは、人はみな生まれた時からリズムで生きているということ。何のリズムかというと、自律神経や脳機能の保持、ホルモンの分泌などあらゆる生命維持機能に関わる体内時計(概日リズム、生物時計ともいう)です。体内時計は37兆個の人間の細胞の働きをコントロールしているといわれており、その形成は胎児の頃から始まっています。各臓器は時計を持っていて、それぞれ母親の影響を受けながらバラバラのリズムを刻んでいます。生後、脳の視床下部にある視交叉上核という領域によって、バラバラの時計が統合されて体内時計が作られていきます。この時、なるべく早い段階で適切な体内時計が作られると、将来共に心身の健康が保てるというわけです。

――いつぐらいまでに適切な体内時計が作られるといいのでしょうか?

三池 生後1年半から2年ぐらいまでが望ましいのですが、柔軟性があるので小学校に上がる前ぐらいまでに修正できるといいですね。ただ、厳しい言い方になりますが、遅くなればなるほど固定して修正が難しくなるので、なるべく早い時期にいいリズムを作るのがよいですね。

妊婦の体内時計が胎児に与える影響

――妊婦の体内時計が胎児に与える影響はありますか?

三池 これも厳しい話になりますが、妊娠中のお母さんが不規則な暮らし方をしていると、その状態が胎児の遺伝子にプログラミングされて、成人してから高血圧やインスリン耐性異常、精神行動異常といった問題が起きやすくなるという話があります。これはDOHaD(ドーハッド)という有名な医学の仮説で、いまは学説としておそらく間違いないだろうと認識されています。私が見てきた中にも、お母さんの生活リズムが不規則で、新生児期に「なかなか寝付かない」「不機嫌で泣いてばかりいる」といった問題が起きるケースがありました。できる限り、妊娠中のお母さんは一定の時間に食事を取るようにすると、赤ちゃんの適切な体内時計づくりのためにもよろしいかと思います。

――では、乳幼児期の子どもに適切な睡眠時間はありますか?

三池 その時期のお子さんには10時間前後の睡眠が必要といわれています。保育園、幼稚園、そしてその先にずっと続く学校生活にあわせ朝ごはんを食べることを考えると、毎朝6時~7時に起床し、20時~21時までに寝るようにするとよいでしょう。朝8時以降の起床習慣と平日22時以降の入眠習慣は、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)発症リスクが高いというデータもあります。