良質な睡眠を促す2つのスイッチとは?

――では、子どもの睡眠不足にはどんなリスクが考えられますか?

西野 睡眠不足のお子さんには、イライラするなどADHD(注意欠陥・多動症)によく似た症状がみられるようです。ADHDと診断されたお子さんが、実は睡眠障害を抱えていたという例が幾つも報告されています。また、朝起きられず不登園の原因になるケースもあります。新生児は1日16時間から18時間寝ますが、その半分がレム睡眠です。レム睡眠が減少して大人の睡眠パターンになるのは、10歳から12歳頃の間と考えられていますが、レム睡眠時には神経細胞に多くのスパイン(棒状突起)が形成されます。スパインは記憶の定着などにも関係があるので、幼少時の睡眠不足が将来に影響を及ぼす可能性もあります。

――リモートワークの増加で世界的に睡眠時間が長くなったという報告もあります。家族でできる対処法はありますか?

西野 人は温度や湿度の変化、光や騒音でも眠れなくなることがありますし、心配事で眠れなくなることも。そこで、大切にしていただきたいのは、「脳のスイッチ」と「体温のスイッチ」の2つ。「脳のスイッチ」は日中の行動とのメリハリのこと。寝る前はスマホやネットを見て脳が興奮状態になるのを避け、できるだけリラックスしましょう。逆に朝は朝食をきちんと取り、日中は活動を上げ、質のよいパフォーマンスを保つようにします。

――では、「体温のスイッチ」とは?

西野 私たちには体の深部体温と皮膚体温があり、深部体温は昼は高く、夜は低くなります。このリズムを保つことがよい入眠につながります。深部の体温が筋肉、脂肪、内臓から生じ、皮膚表面や手足の指先から逃がれることで、体温リズムは調整されます。過ごす室温にも影響されるので夜は、夏も冬もエアコンや寝具で暑すぎない環境を整えましょう。そして、大切なのは夕方以降の入浴の方法。40℃ほどの湯船に15分浸かると深部温度は0.5℃ほど上がり、90~120分で元に戻り、その後は入浴前の体温が低くなります。このタイミングに就寝すると、私たちはぐっすりと眠りやすくなるのです。ぜひ就寝2時間前をめどに入浴することを心掛けてください。

――このように体温や睡眠に関連した生理現象を知っておくといいですね。

西野 そうですね。また、行動学的観点も大切です。ベッドに寝転がってスマホを見ることが習慣化すると、ベッドは体を休める場所ではなくなってしまいます。これらの点を踏まえながら、家族ぐるみで良質な睡眠が取れるよう取り組んでいただければと思います。