家事も育児も夫婦でシェアするのが当たり前の時代。とは言っても、実際には妻一人がワンオペで頑張っていたり、職場の事情で育児・家事に参画できない夫もいるのが現実です。佐賀県ではそんな事態を打破すべく、今年、「マイナス1歳からのイクカジ」推進事業がスタートしました。新時代のパパたちはどのように変わっていくのでしょうか。

 佐賀県の山口祥義(よしのり)知事に佐賀県が目指す出産・子育てのあり方をお聞きし、更にファザーリング・ジャパン代表でイクメンブームの火付け役でもある安藤哲也さん、サイボウズ社長で働き方改革の旗手、青野慶久さんも加わって、これからの育児と働き方について語り合いました。

夫も妊娠中からパパ修行を始めよう

 佐賀県の山口祥義知事といえば、2016年に配信された「知事が妊婦に」という動画の仕掛け人。佐賀・宮崎・山口の各県の知事が重さ7.3㎏の妊婦ジャケットを着て、妊婦体験をするムービーは世界中で大きな話題となりました。

 山口知事は霞が関の官僚出身。以前は、日付をまたいで残業をするのは当たり前で、家事・育児は妻にお任せの完全ワンオペだったと言います。3人目の出産時に初めて育休を取得し、育児の大変さに気付いたそうですが、3人目の妊娠中のときでさえ「お腹の大きな妻を身近に見つつも、忙しくてとても大変さには思いが至らなかった」という山口知事。

 しかし、妊婦ジャケットを着けて妊婦体験をした際に「妊婦さんはこんなに大きくて重いお腹を抱えているのか」とようやく大変さを痛感。「女性は出産前、つまり子どもが『マイナス1歳』のときからこのような形で育児が始まっている」と実感したそうです。

 一方、男性は子どもが産まれてからがスタート。そこから徐々にパパの自覚が育っていきますが、明らかにママとは差がついています。

 「もうひとつの課題」と山口知事が指摘するのが、佐賀県をはじめとする九州・山口地方における、父親の子育て事情です。実は、九州・山口地方は、合計特殊出生率では全国のベスト10のうち7県を占めるほど、子だくさんの土地柄。ところが、男性の育児参画は低いため、女性の育児・家事負担が大きいという現実があるのだそう。

 「子どもにとっては両親が仲良くしているのを見るのが一番うれしいものです。そして、親にとっても子育てを大変ではなく、楽しいと思ってもらうことが大切です。そこで、そこでスタートしたのが『子育てし大県“さが”』プロジェクト推進事業であり、今年から『マイナス1歳からのイクカジ』推進事業を始めました」と山口知事。

 「子育てし大県“さが”」は、結婚、出産、子育ての希望が叶う環境を整えて、佐賀県を「子育てしたいと思える県にしよう」というプロジェクトです。「マイナス1歳からのイクカジ」とは、妊娠中から男性に子育てや家事参画への意識を高めていただくことで、産後も夫婦ともに育児・家事参画に取り組んでもらい、夫婦円満でい続けてほしいという事業です。家事のコツを教える「家事ギャップ講座」や「プレパパ講座」などを通じて、夫婦の考え方の違いに気付きいただき、男性の育児・家事参画に対する気持ちの変化を促し、イクメンへの準備を応援します。

 「これらのプロジェクトを通して、男性に今よりさらに育児・家事に関心を持ってもらい、子育てしながら働きやすい職場環境を作っていきたいと思っています」

佐賀県の山口祥義知事。1965年生まれ。12年前総務省から鳥取県に出向していた際、3人目の子どもの育児休暇を2週間取得した。職員のユニークなアイデアを生かしながら、映画「銀魂」と佐賀県とのコラボなど、佐賀県の良さを発信する企画を実行している
佐賀県の山口祥義知事。1965年生まれ。12年前総務省から鳥取県に出向していた際、3人目の子どもの育児休暇を2週間取得した。職員のユニークなアイデアを生かしながら、映画「銀魂」と佐賀県とのコラボなど、佐賀県の良さを発信する企画を実行している

 次ページからは山口知事、安藤さん、青野さんの鼎談の様子をリポートします。それぞれ3人の子の父であり、子育てと働き方について一家言あるお三方が、育児と働き方について熱く語り合いました。

マイナス1歳からのイクカジプロジェクト