「保育園の呼び出しにパパが対応」OKは地方や中小はまだ少数

安藤 娘が生まれたころは、まだ、東京でも男性のトイレにおむつ替えシートがない時代だった。子どものことで僕が会社を休むと「それは母親の仕事だろう」と言われたりね。「日本の社会って、父親が育児しにくい」というモヤモヤがずっとあって、「そういう社会を変えたい」という思いから2006年にファザーリング・ジャパンを設立しました。

―― 子どもが病気の時はパパが早退するという家庭が出てきています。企業の理解が進んでいると感じますか?

青野 まだ一部かもしれません。進んでいる企業はすごく進んでいて、取り残されているところは20年前と同じというような。

安藤 地方や中小企業はまだまだこれから。

山口 工場のようにラインがある職場では、穴をあけられないプレッシャーがあって休みにくいからね。経営者としては、その穴をどう埋めるかという新たな問題が出てくるのだけど、中小企業は対応するのもなかなか難しい。そこに合わせた政策をどうつくるかが課題です

青野 上手く回していくのももちろん選択肢としてありますが、もうひとつ、「あきらめる」というのもあります。サイボウズでもそうしています。夕方の6時にクライアントから「今日中に見積もりを出してほしい」と言われたとします。そうしたら、そういった要求は断っていいと言っているんです。今まで日本では、「お客様は神様」というように、どうしても断れなかった。でもサイボウズではかまわないんです。だって、要求にこたえるために疲弊してまでやったら、翌日疲れが残って、ほかの業務への影響が出るでしょう。

 それで他へ行ってしまうお客さんだったら、仕方ないです。でも、意外とクライアントは逃げないんです。あちらはあちらで、「サイボウズは6時以降仕事しないんです」と担当者上司に言い訳ができるんですね。こっちが歯を食いしばると、向こうも食いしばることになっているからです。

山口 我慢比べの働き方から変えていく必要があるよね。要は品質を落とさなければいいわけだ。

多様性に理解のある組織に変革を

サイボウズ社長の青野慶久さん。1971年生まれ。「100人100通りの働き方ができる会社」のリーダーとして自らも3回の育休を取得。誰もが働きやすい職場環境への提言が注目されている
サイボウズ社長の青野慶久さん。1971年生まれ。「100人100通りの働き方ができる会社」のリーダーとして自らも3回の育休を取得。誰もが働きやすい職場環境への提言が注目されている

青野 僕は育休を3回取ったんですけれど、妻にも会社にも一番好評だったのが、3回目の育休でした。それは、厳密に言うと育休はでなくて時短で、毎日出社して、4時でズバッと帰るというものです。これだと、仕事への負荷も軽いんです。社員は「何かあってもまた明日来る」と安心できるし、妻にとっても「毎日夕方から使えるヤツ」になる(笑)。

 家族のニーズによっては、育休を数週間取るよりも、時短でもっと長めにとったほうが、家族には喜ばれるのではないかと思います。国が育休取得率を上げたいという気持ちはわかるのですけれど。

安藤 職場の評価に響かないのなら、そっちのほうが合理的だね。

山口 身内の話だけれど、県庁も30分単位で時間休をとれる。つまり、仕事をきっちりこなせば、自分で働き方をつくれるということだから、可能な人はどんどん利用してほしいと思います。時短でもちゃんと仕事が回っている人には、上司は「お前はすごい」と言ってあげないといけない。今迄みたいに、残業していることが仕事をたくさんやっているというアピールになるような職場では、とても育児と両立できないわけだから。

―― 早く帰りたくても社内に「見えざる抵抗勢力」があって帰りにくいという声も聞きます。

安藤 世代の壁がある。管理職世代には育児をほとんどしていない男性もまだいるからね。

山口 部長や課長といった管理職がきちんと分かっている組織は、変わっていける

安藤 大きい組織では、トップは育休を取れ、と言うけれど、中間管理職の意識は変わらなくて、休みにくいとかというのがある。頭の固い中間の人たちを「粘土層」って言っているんだけど。

山口 「粘土層」。うまいことをいうね。そこに浸透させていくにはトップからの評価が重要で、多様性を理解したマネージメントをしていかないといけないわけだ

安藤 東京では新入社員の男性の7割が、育休を取りたいと思っていて、これからはそういうことにも理解がある会社に人材が集まるだろうね。今はとくに人手不足の時代だから、選ばれない企業は経営問題になる。

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