今年、創立100周年を迎える淑徳巣鴨中学高等学校。校訓「感恩奉仕」を精神的な柱とし、宗教者でもあった創立者の「共生の理念」と合わせて、生徒の可能性を最大限に引き出す教育を推進している。その中心にあるのが小さな気づきの連鎖を促す「わかる授業」や、多彩な探究活動だ。こうした教育の狙いと効果について校長の夘木幸男先生に聞いた。

主体性を育み、気づきを促す「わかる授業」へ

 校訓の「感恩奉仕」とは、自らを取り巻くすべてのものに感謝し、自分のできることで社会に貢献するという実践的な態度を意味している。授業の始めと終わりに合掌するのも、感謝の心を持ちながら、謙虚な心で学びに向かう姿勢を育てるためだ。夘木幸男校長は、「大学に進学しても授業の前後に合掌するという卒業生もおり、6年間の教育のなかで、校訓の精神がしっかりと身についているのだと思います」と語り、100年の伝統の重みに思いを寄せる。

 子どもが成長するには、まず気づきがあり、その気づきが別の発見を生むといった気づきの連鎖が必要となる。そのため、淑徳巣鴨では、授業はもちろん、あらゆる学校行事を通して、こうした気づきを促す教育活動の工夫を行っている。

 「授業における気づきとは、今まで知らなかったことが知識として得られるということにとどまりません。とくにこれからの時代は、基礎知識を前提として、それを他の知識とどうつなげていくか、社会でどう活かしていくかが求められます。いわゆる合教科的な発想力や、自分の得意な分野で力を発揮できる能力が求められます。本校では、そうした発想や能力を育てるための『わかる授業』に力を入れています」(夘木校長)

 「わかる授業」とは、生徒の気づきをベースにして、進んで調べ、新しい知識を自ら習得し、さらに新しい気づきへとつなげていく授業を指す。教員も単に教え込むのではなく、発問を工夫して生徒が気づけるように授業を工夫している。だから授業中の生徒のつぶやきも見逃さない。夘木校長も、「生徒が授業中にふっと口にしたことを取り上げることで、新しい視点を思わず提供してくれたその生徒を勇気づけ、まわりの生徒の気づきを促すようにしています」と語る。

探究活動とスポンサー講座で広い視野を獲得

 気づきを促す教育活動は、授業だけにとどまらない。高2まで毎年探究活動を行っており、それぞれの段階に応じた様々な気づきの機会が用意されている。たとえば、中1では「自分史ワーク」を行う。これは、日々の授業から、家庭での出来事まで含めた生活全般を振り返ってノートに記録として残していくもので、行動や考えを文章化することで、自分の内面を探究していく活動だ。

 中2になると「ムービーワーク」が行われる。学校の中を自由な発想で撮影し、2分程度の動画作品にまとめる活動だ。映像は何を撮ってもいいが、どんな視点で、何を表現しようとしたのかを、明確に意識しながら作品作りを行う。途中で仲間たちの作品をみて意見を言い合ったり、修正したりしながら、1年間かけて作品を完成させる。

 「映像を撮るときには、必ず撮影者の考え方や、切り取り方が反映されます。それを見た他の生徒は、自分にはない視点に気づくことになります。『自分史ワーク』ではまず自分自身に、『ムービーワーク』で他者の視点に気づくことで、視野を広げることを狙っています」(夘木校長)

 中3になると、それらの発展形として、「卒業論文」を執筆する。世の中で疑問に思っていることや、関心の高いことをテーマに探究活動を行い、論文にまとめ、保護者や後輩たちの前でプレゼンテーションも行う。さらに高校1・2年では、グループでの探究活動に切り替わる。ここでも、調べ、考察し、議論し、まとめ、発表し、振り返るといった一連の探究活動によって、高度な気づきを獲得していく。

 全校生徒を対象にした「スポンサー講座」も気づきを誘発する活動で、各界の第一線で活躍している人や、専門分野を究めた人々を招いて、または、生徒たちが出向いて、その世界について話してもらう講座だ。「生徒たちの将来のスポンサーになっていただきたいという意味で、そう名付けています」と夘木校長が語るように、できるだけ幅広い分野の専門家を呼んで、年間20回程度の講座を開いている。

 「この講座は、キャリアについて考えるいい機会にもなっています。気軽に質問できるように、全体講演ではなく、受講人数や対象学年などを絞り込み、興味のある生徒が本当に聞きたいことを聞けるような形で開講しています」(夘木校長)

社会への気づきを生む修学旅行

 修学旅行も気づきにつながる教育プログラムとして設計されている。たとえば、中3の修学旅行はシアトルを訪問する。シアトルは、アマゾンやマイクロソフト、スターバックスコーヒー、ボーイングといった世界的な大企業の本社があり、世界的にも注目されている都市だ。

 修学旅行では、ボーイング社を訪問し、ボーイング社とJALの関係や、JALとその顧客との関係などについて学ぶ。JALは、自らの顧客のためにボーイング社に装備の注文を出し、ボーイング社では注文通りにセッティングをして試運転して納入するわけだが、それからの社会における意味などについて、現地の技術者から聞きながら考察することになる。

 もちろん、こうした社会見学だけでなく、現地の学校を訪問して交流したり、その学校の生徒の家にホームステイを行い、英語でのコミュニケーション力を高めたりする時間も十分に確保されている。

 「私自身は、修学旅行というより、『地域研修プロジェクト』と捉えています。高校ではイギリスを訪問しますが、いずれも事前学習と、現地での学習、振り返りというプロセスを経ることで、異文化交流と合わせて、社会の仕組みに気づく探究活動として高い教育効果を発揮しています」(夘木校長)

 海外交流に関しては、オレゴン州でのサマーキャンプや、3カ月留学、1年留学などのプログラムが豊富に用意されているほか、高校のプレミアムコースには、高1でカナダへのホームステイプログラムがあるなど、多くの機会があるのも特徴の一つである。

 「今年は、医学部への合格者が8名出るなど、文系学部中心の進学から、少しずつ変化の兆しが見えてきています。説明会に参加される人数も増えていますし、次の100年を見据えて本校の魅力をさらに強化していきたいと考えています」(夘木校長)

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