望まない妊娠、性感染症を防ぐための方法や、なぜセックスをするのかについて…。全国の中学・高校500校以上で性に関する講演を続けてきた、産婦人科医の遠見才希子さん。「えんみちゃんって呼んでください!」と気さくに呼びかけ、自分の経験や思いを交えて性を語る姿が、多くの中高生の支持を得ています。

 遠見さんは今年1月、初めての出産を経験。「小さいころから思春期まで、心と体の発達に応じて家庭でも性教育をしなければいけないと、改めて強く思うようになりました」と語ります。思春期に悲しい思いをしないよう、幼いころから子どもに何を伝えるべきか、遠見さんに聞いてみました。

若者がセックスをする理由は「寂しいから」という言葉

 遠見才希子さんは大学在学中、「思春期の子にもっと気軽に、楽しく性を考えてもらう場を作りたい」と、中高生向けの講演活動を始めました。きっかけは「コンドームの達人」として子どもへの性教育を続ける、岩室紳也医師との出会い。若者がセックスをする理由は「寂しいから」だという言葉に、ハッとさせられたといいます。

 「私も思春期、寂しさや居場所のなさから、恋愛かどうかも分からないようなつながりに逃げていた。あのころの自分に言ってあげたいことを、今の中高生に伝えたい」。講演には、えんみちゃんの「伝えよう」という思いと工夫があふれています。

 例えば、スライドには「オトナの話」へのアレルギーを感じさせないよう、中高生が書くような手書きの字体を使います。「はんぱない遅刻&欠席」など、落ちこぼれだったという高校時代の経験も語ります。妊娠の仕組みは、男性教師を女性器に見立てて説明し、子どもたちを飽きさせません。「『腟外射精』という言葉も、子どもたちに分からないと言われた。使いたくはないけれど、あえて『外出し』などの言葉も使います」

 講演を聞いた中高生からは「えんみさん、もう少し早く会いたかったです」「本当に知りたい性のことを人に聞けずにいたのでよかった」など、大きな反響が寄せられています。

 「性のことで傷付けられる中高生をなくしたい」との思いから、全国の中学・高校500校以上で講演を続けてきた遠見さん。自分自身が女の子の親になり、改めて性教育の重要性を実感しているといいます。

自己肯定感を育て、「ノー」と言える力をつけたい

 出産を経て「わが子が、そして同じような小さな子どもたちが、性暴力に遭わないようにしなければいけない、という危機感が強まりました」と遠見さん。

 幼い子どもたちへの性犯罪は後を絶たず、小学校では「いじめ」が性的な形で現れるケースもあります。思春期の痴漢、望まない妊娠など、性に関するリスクは子どもの年齢にかかわらず、常に存在すると言っていいでしょう。子ども自身が、なるべく被害から身を守れるようになってほしいと、親なら誰しも考えるもの。では、子どもが幼いうちから、親ができることはあるのでしょうか。

「はい、着床しました!」。講演では男性教師を女性器に見立てて、妊娠のプロセスを説明する。生徒たちをステージに上げ、水を使ったゲームで性感染症がいかに広がりやすいかを実感してもらうことも多い。生徒たちに分かりやすく、かつ飽きさせずに説明するための工夫だ。
「はい、着床しました!」。講演では男性教師を女性器に見立てて、妊娠のプロセスを説明する。生徒たちをステージに上げ、水を使ったゲームで性感染症がいかに広がりやすいかを実感してもらうことも多い。生徒たちに分かりやすく、かつ飽きさせずに説明するための工夫だ。