日本でも本格的なネウボラの普及がスタート

 ネウボラを参考にして設置が始まった包括支援センターは、2018年4月1日現在、761市町村1436か所を数えます。17年8月に厚生労働省が「子育て世代包括支援センター業務ガイドライン」を公表し、2020年末までに全国展開を目指すとしていることから、今後も増えることは間違いなさそうです。

画像素材:Fast&Slow / PIXTA(ピクスタ)
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 実は“日本版ネウボラ”といっても、日本の包括支援センターとフィンランドのネウボラとでは、システムが異なります。

 「例えば、包括支援センターの多くは担当保健師制にはなっていません。また、フィンランドでは、全国のどこのネウボラでも均一のサービスを提供していますが、包括支援センターは、体制や支援内容が自治体ごとに千差万別です。ガイドラインにも“市区町村の実情に応じること”と明記されています」

 そんな中で、現在、横山先生たちがアドバイザーとして入り、担当保健師制を強化する自治体が増えつつあります。

 その1つが、大阪市。母子健康手帳を交付する際の妊婦面接から担当保健師を紹介し、母子健康手帳にその保健師の名前と連絡先を記入する欄を設け、「いつでも相談に応じます」と妊婦に伝えるという取組みが、2019年4月にスタートしました。

 先行して2017年に大阪市港区で同様のアプローチを行なったところ、「母子手帳を見て電話しました」という相談の電話が、保健師に届くようになったといいます。この取組みを市全体に広げることで、より多くの人の育児不安が解消され、虐待などの問題の発生が減少すると見込まれます。

 また大阪市では、出生届を提出した父親に、父子手帳「パパと子手帳」を交付。父親の育児参加を促しています。

 「北海道の中頓別町も、子育て支援を町の成長戦略にしようと、本格的なネウボラのシステム導入を進めています。1人の保健師が担当できる数に限りがあるうえ、行政と保健師が足並みを揃える必要があり、人口の多い都市部での新しいシステムの導入は困難ですが、幸いこうした地方の町は人口が少なく、変革はしやすいと考えられます」

 ネウボラを軸にした地方創生の好例となることが期待されます。

住んでいる自治体をチェック!積極的な活用を

 他にも、ネウボラを参考にして、独自の手厚いサービスを提供している自治体があります。

 福島県伊達市は、担当の保健師の顔写真、携帯電話番号を記した名刺を子育て世帯に郵送し、担当保健師にいつでも相談できる体制をつくっています。

 千葉県浦安市は、全国でも早くからネウボラ事業に取組んだ市です。妊娠判明後、保健師らと一緒に子育てケアプランを作成すると、マザーバッグに入った「こんにちは あかちゃんギフト」を受取ることができます。バッグは毎年変わるので、同じバッグを持っていたら、同い年の子どもがいる証。ママ同士の横のつながりを作るきっかけになることでも好評だといいます。

 静岡県島田市においても、担当保健師制度などの導入が始まり、島田市版ネウボラ構築に向けた取組みが本格化しているようです。

 ご当地版ネウボラを標榜していても、フィンランドのような支援を受けられるとは限りません。しかし各包括支援センターは、それぞれの地域の状況に応じた支援サービスを提供しています。まずは自分が住んでいる自治体でどのような支援が受けられるのかを調べておくとよさそうです。センターに限らず、自治体にどんな支援があるのか、母子健康手帳交付時の妊婦面接の際に、保健師などに尋ねてみましょう。せっかくの妊婦面接の機会を利用するのが、必要な時に的確な支援を受けられるための近道と言えそうです。

※各自治体の支援サービスは2019年6月時点の情報に基づき作成しております。詳しくは各自治体にご確認ください。

大阪市立大学大学院看護学研究科教授 横山美江先生
大阪市立大学大学院看護学研究科教授 横山美江先生

(文/松田慶子)

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