1929年の創立以来、キリスト教の信仰に基づき、「聖書」「国際」「園芸」を教育の基盤としてきた恵泉女学園中学・高等学校。創立時から大切にしてきた「自ら考え、発信する力」は、ふだんの授業から着実に育まれている。今回は中2の数学、中3の国語の授業をそれぞれ見学し、担当した数学の佐野塁生先生、国語の引地桂子先生に〝恵泉ならではの授業〟について聞いた。

授業での先生とのやりとりが頭を回転させ、確実な理解に

 中2の教室で行われた数学の授業。まずデイリーテストが配られると、生徒たちのどよめきが起こる。「先生、答えが書いてあります」。テストに出されたのは、図形の証明問題。答えが書かれていたのは、「証明の誤りを下線で示し、正しい語句に直しなさい」という問題だったからだ。

 授業の冒頭には毎回、月~木曜日はデイリーテスト、金曜日はウイークリーテストを行う。この授業を担当した数学科科長の佐野塁生先生は、次のように話す。「幾何では証明を書かせたり、代数では計算のトレーニングをさせたりする問題も当然出しますが、今回のような〝頭が揺さぶられる〟問題を出すことも時々あります。このような問題を考えることで、自分の答案を客観視して、間違いを見つける力にもつなげられると思います」

 テストの時間が終わると、周りの友だちと3~4人のグループになって、その答案の答え合わせをする。数学が苦手な生徒にとって、先生には質問しづらいと思うようなことでも、友だちにだったら尋ねられる場合がある。教えるほうの生徒も、わからない人に説明すると理解が定着しやすくなり、双方にメリットがあるのだ。

 その後、先生が問題のポイントなどの解説をするが、常に生徒に問い掛け、自然な形でやりとりをしながら進めていく。佐野先生は、「生徒は教員と話したり、生徒同士で相談したりすることで、頭が回転している状態になります。そのような授業は印象に残りやすく、ほかの生徒から気づきを得ることも多いので、教育効果が高いといえるのです」と説明する。

 そのうえで、「一人ひとりに合わせた指導をする」ことも恵泉の数学の特徴だ。生徒が提出する宿題や「直しノート」は、先生が添削をして返却する。苦手な生徒には、わかりやすいようにヒントを与えるが、得意な生徒ができなかった問題に対しては、少しだけヒントを出しながら、しっかり考えるように促す。「間違えた問題は、次にできるようにすればいいのです。何回も繰り返し挑戦することで、確実に力がついていくので、できる限りていねいにサポートしていきます」と、佐野先生は力強く語った。

数学科科長 佐野塁生先生
数学科科長 佐野塁生先生

「論理的に考える力」を育むメディアリテラシーの授業

 一方、メディアセンター内の第一学習室。ここで始まるのは、恵泉で20年以上続けられている国語の「メディアリテラシー」の授業で、中3生が週に2時間履修するものだ。この日は、ディベートの準備のためのグループワークが行われる。

 ディベートのテーマは、生徒が意見を出し合って決めるという。このクラスは「幼児にスマホを与えるべきか」「恵泉デー(文化祭)を2日間にするべきか」という2つのテーマを扱い、それぞれ賛成、反対の4つのグループに分かれて活動する。

 テーマの決定について、リベラルアーツ教育部長(国語科)の引地桂子先生は、次のように話す。「基本的には生徒たちがやりたいテーマにしますが、社会的に問題になっていて、ある程度論点が出ているものはむしろ避け、身近な問題を扱うようにしています。身近な問題でこそ、『相手を説得するためには、どんな根拠が必要か』を考える力が伸びると思います」

 このディベートの準備に入る前には、メディアセンターの司書教諭から、データの集め方について指導を受ける。より信頼度が高い情報を集めるために、匿名ではなく有識者が書いているか、データが新しいかなどのポイントを押さえ、白書や統計の使い方も学んでおく。「情報をうのみにせず、きちんと検証することが大切」と、引地先生は強調する。

 授業中、引地先生は各グループの様子を見て回り、アドバイスはするが、生徒は自分たちで何が必要かを考えて動いている。「たとえば、恵泉デーを2日間にしたら何が変わるのか、どういうメリット・デメリットがあるのかを考え、教員、保護者、クラブをやっている生徒、やっていない生徒など、さまざまな立場から細かく見ていく必要があります。そうすると、『こういうデータがあれば説得できるかもしれない』と気づいていくのです」(引地先生)

 生徒たちは、グループのなかでいくつかの役割に分かれてデータを集め、それを基にして議論の筋道を組み立てる。引地先生は、国語でメディアリテラシーを学ぶことについて、「『論理的に考える力』は、国語で育てるべき力です。ことばを使う文章や発言において、『何を根拠にしているのか』をいつも意識してほしいと思います」と語った。

リベラルアーツ教育部長 引地桂子先生
リベラルアーツ教育部長 引地桂子先生

生徒同士が意見を言い合える基盤をつくっている「感話」

 数学、国語の授業に共通しているのは、「生徒に考えさせる」という点だ。その授業の基盤をつくっているのが、恵泉の象徴ともいえる「感話」。これは、毎朝の礼拝の際に年に3回、日ごろ自分が感じていること、考えていることをほかの生徒の前で述べるものである。両先生とも、感話がもたらす良い影響を授業において実感しているそうだ。

 「授業中に生徒から多様な意見が出ますが、それを誰かが否定することはありません。ふだんから感話を聞いているので、『いろいろな考えの人がいる』ことを受け入れるベースができているのだと思います」(佐野先生)

 「ディベートの後に、聞いていた生徒がジャッジをするのですが、批判的なこともきちんと言い、言われた生徒もしっかり受け止めています。お互いを認め合ったうえで、自由に発言できるという関係が、この授業を成立させるのだと感じています」(引地先生)

 授業や学校生活を通じて、6年間で培われた思考力は、大学入試で生かされるのはもちろん、その先の人生にもつながっていく。わからないことをしっかり考え、自分の論理で実行し、人に説明する。このような力を身につけた恵泉生は、未来に向かってさらに大きく羽ばたいていくことだろう。

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