心配なのは、親が自宅にこもって、どこにも現れない子どもたち

―― そう考えてみると、共働き世帯は保育園を利用できるので、恵まれているかもしれません。毎日、連絡帳に成長の様子を記して、先生がそれにコメントしてくれることで「この子は可愛いし元気だし、大丈夫」と思えることは、そういえばたくさんありました。

鈴木 そうなんですよ。保育園にしても、子どもの遊び場にしても、来てくれる方に対しては、行政もサポートしやすいです。どんなお子さんがいるか分かりますから。ですから心配なのは、親が自宅にこもって、どこにも現れないお子さんです。亡くなった結愛ちゃんは、まさに、そういうお子さんだったのではないでしょうか。

―― 報道によれば、東京に引っ越してきた後、品川の児童相談所が2回、結愛ちゃんの自宅を訪問したそうです。2回とも会えなかったそうですが、児相のスタッフを増やすとか、もう少し、何とかならないものでしょうか。

鈴木 実際に東京23区の実状を見てきた経験に加え、ちょうど今、全国の児相や市区町村の支援拠点の実態を調査しています。力のある児相の職員を今より倍増しなくては適切なケースワークや介入はできないし、市区町村支援という役割も果たせないのは確かだと思います。もちろん今回の対応のまずさの検証は必要です。その点はまた別の機会に話せればと思います。

 現在23区内での児相や区の子ども家庭支援センターでは、1人のケースワーカーが多くの場合100件超の児童虐待ケースを抱えています。とても無理がある状態です。1人当たりのケース数を半分の50件にしようと考えたら、一つの部署で人員を倍増する必要があります。単純計算しても、予算として、ケースワーカーの年間給与額×人数分の倍の額が確保される必要があるということになるはずです。

 児童虐待を本当に減らしたい、子どもの命を本気で救いたい、と考えるなら、一つ大事なことがあります。それは、専門的な技能を個人やチームが蓄積できるために正規職員を増やす必要がある、ということです。子どもに関わることは「誰もができること」だと勘違いしている人が多く愕然とします。子どもや家庭に関わる専門的知見が必要なのです。虐待が疑われる家庭を見立て、子どもの状況を把握して信頼関係を築き、長期的に支援をするためには、その仕事に携わる人の雇用の安定や保障が必要です。

 法制度として、ケース数が増えたら担当の児童福祉司等を一人増やす、という強制的な仕組みが必要だと思っています。そうしないと、担当職員が過労で職場を離れたり、病気になったりしてしまいます。人手不足は子どもの命に直結するという認識を、私は持っています。