本屋大賞受賞作『一瞬の風になれ』や2017年山本周五郎賞『明るい夜に出かけて』受賞など、活躍が続く作家・佐藤多佳子さん。そんな佐藤さんに「本との出会い」「作家としてのキャリア」「一女を育てる働く母」などのテーマでインタビューを実施。文学をこよなく愛する“少女”が、名作家になるまでをお話しいただきました。その様子を前・中・後編の3回に分けてお送りします。中編の今回は、「子どもの本」の魅力、創作における自分の“根っこ”、大学卒業後のキャリアの模索と挑戦、結婚・出産後の仕事と育児の両立について語っていただきます。

【作家・佐藤多佳子インタビュー「作家であること。母であること」】
第1回 作家・佐藤多佳子「運命の1冊に出合った中1の夏」
第2回 作家・佐藤多佳子「執筆活動も、子どもが最優先」 ←今回はココ
第3回 中学受験は後悔の嵐 親が間違っていることは多い

名作といわれる一般小説を読んで、「何じゃこりゃ?」

日経DUAL編集部(以下、――) 作家を目指して、具体的に作品を書き始めたのはいつごろでしたか?

佐藤多佳子さん(以下、佐藤) 私は本が好きで、「こういうものを書きたい」と思ってからは、割とゆるぎなくずっと、「書く」ことを自分の中で一番大事なものとして位置付けていたと思うんです。小さいころから「子どもの本オタク」で、中学・高校のころも、一般小説があまり好きじゃなかったんですね。本好きの母から、中学に入ったころに「そろそろ大人の文学も読んでみたら?」と薦められた作品が、ことごとくみんな嫌いで(笑)。『若きウェルテルの悩み』とか、『車輪の下』とか、読んでも「何じゃこりゃ」と。

 私はやっぱり子どもの本の中にある……、これは言い出すと非常に難しい問題なので、あまり簡単に言いたくないのですが、とても明るいものがある、というか、光のある世界である、と。生きていくために、気持ちが明るくなったり、人間とか世の中がいいものだという肯定感が、どこかで欲しい人間なので。

―― 佐藤さんの作品は、子どもの本に共通する「明るさ」がありますよね。「救い」があるというか。

佐藤 あるとしたら、嬉しいです。絶対に“自分の根”はそこに生えていると思うので。

―― いつかはドロドロしたものを書いてみたいという思いはありますか?

佐藤 書けないと思いますね。だって、ドロドロしたものを書くためには、自分がそのドロドロした世界に行かなきゃいけないでしょ。不愉快じゃないですか(笑)。「何のためにそんなことしなきゃいけないの?」って。

―― 佐藤さんにとって、書くことは“楽しみ”なのですね。

佐藤 そうです。書くことは楽しいです。つらいことはあんまりないです。もちろん、そんなにいつもいつもスラスラ書けるわけではありませんし、書く前はプレッシャーもありますし。それはやっぱりしんどい作業ですけれど、ただ創作そのものは喜びであり、楽しみであり、自分が作る世界に自分がそこにいることがやはり楽しいので、楽しくない世界にはやっぱり行きたくありませんね。

―― 佐藤さんにとって、児童文学というのは本当に大切な存在なのですね。

佐藤 そうです。青山学院大学に進んだ後も、児童文学サークルに入りました。顧問は、神宮輝夫先生という有名な翻訳者であり、評論家でもある青学の英米文学の研究者の方でした。今はもうそのサークルはないのですが。

―― そのサークルは、どんな活動をしていたのでしょう?

佐藤多佳子さんにとり、子どもの本の世界は大事。「絶対に“自分の根”はそこに生えている」(佐藤さん)
佐藤多佳子さんにとり、子どもの本の世界は大事。「絶対に“自分の根”はそこに生えている」(佐藤さん)