大好きな『わたしたちの島で』の「続き」を書こうと……

―― 佐藤さんの読書体験の中で、忘れてはならない本の一冊が、リンドグレーンの『わたしたちの島で』だと聞きました。

佐藤 中1の夏に読みました。大阪に住む3歳下の従妹が先に読んで、「これすごく面白かったから」って貸してくれたんです。私も彼女も一人っ子だったので、長い休みはほぼ大阪で一緒に過ごしました。まるで本当の姉妹のようでした。私はその本の面白さのあまり、その一晩でパーッと読んでしまって。従妹と同じくらい夢中になりました。

―― どの辺りに夢中になったのですか?

佐藤 私の好きな本には、はっきりとした傾向があるんです。自分自身、東京の都会の真ん中で育ち、かつ、一人っ子ということもあって、遊び相手に恵まれない子ども時代を過ごしました。海や山といった、豊かな自然の中でたくさんの子どもがいきいきと遊んでいる、というのが本当に憧れの、自分になかったもので、求めてやまなかった世界。それを、本を読むことで一生懸命埋めていたんです。

 『わたしたちの島で』という本の舞台は、スウェーデンの人たちが避暑で行くウミガラス島という、バルト海に浮かぶ小島。海の近くにある、何かしたら壊れてしまうようなおんぼろのスニッケル荘という一軒家をめぐる物語です。メルケルソン一家という家族がスニッケル荘を借りて、ひと夏を過ごします。そこでの生活があまりに楽しかったので、夏だけでは足りず、冬も春も行く。島の人や島の動物を含めての交流、一年を通してのスウェーデンのものすごく美しい自然と海のそばの生活が描かれます。

 例えば、朝、起きたらそのまま桟橋を走っていって海にドボンと飛び込む、みたいな生活です。夏至の日には「夏至祭」があって、白夜の中を一晩踊って過ごしたとか、そういうことの一つひとつのエピソードを読むだけで、本当にもう自分がそこで一緒になって遊んでいるような気持ちになります。「こんなことができたら、どんなに楽しいだろう」という、私が一番憧れる世界です。それに、表現がとてもユーモラスなので、登場人物や登場人物の言動がいちいち面白かったんですよね。

 従妹も私もそういうことが全部頭に入って、何かがあると主人公の台詞を引用して、2人でワーッと笑ったりして。

―― 高尚な遊びですね。

佐藤 そうですね。中1の夏は、『わたしたちの島で』のごっこ遊びだけで、従妹と盛り上がって。2人でウミガラス島に行っていたようなものです。実際は暑くて狭い大阪の家で、ただただ2人で心をスウェーデンに飛ばして。

 だけど、夏が終わって私が東京に戻ると、小さいころは従妹は一日中泣いて過ごすような感じでした。やっぱりお互いに寂しいんですね。夏の終わりはなんだか寂しい時期ですし、遊び相手はいなくなっちゃうし、学校に行かなくちゃいけないし、それでもまた『わたしたちの島で』を読もうと思うんです。でも、読んでいる間は楽しくても、読み終わるとまた何とも言えず寂しくなって。その楽しさを分かち合う相手がもう隣にいないし、本は終わっちゃったし。

 それで、「続きを書こう」と。