女性社員でも同じような転勤辞令を出すのか?

 「内閣府の調査でも、私たちが実施している『隠れ育休調査』でも、職場の『育児休業を取得しづらい雰囲気』が理由で、育休を取得する意向はあったが取らなかったという人が非常に多いのです。上司だけでなく、労働者本人も育休取得は権利であり、取りたいと希望すれば取ることができるものだという認識がない人が少なくありません。

 カネカのケースはまだ判然としない面はありますが、関西への異動辞令を多くの人が育休取得に対する意趣返しと捉えたことで、育休取得を躊躇する男性がさらに増えるのではないかと懸念しています。異動そのものはやむを得ませんが、育休取得後であったり、子育て中だったりする社員に対してはそれなりの配慮がなければ、そうした意図がなかったとしても、周囲は報復人事だと捉えてしまうでしょう」(林田さん)

 これまで女性に対しては一定の配慮がされることが多かったが、男性に関してはまだまだそうなっていないと林田さんは続ける。

 「私がこうした企業に聞いてみたいのは、『もし当該社員が女性だったら、同じように復職後2日で転勤辞令を出しますか?』ということです。女性でも育休後の人事異動はわりとあるのですが、その場合も社員としっかりとコミュニケーションを取りますし、復職して2日後に転勤というのは聞いたことがありません。女性には配慮するけれど男性には配慮しないというのはおかしな話。私はなんでもかんでも企業側が悪いというつもりは毛頭ありませんが、今回のカネカのケースは明らかに配慮と必要なコミュニケーションが欠けていたと思います。

 それに、男性の育休は産後8週間のうちに取得すれば、期間中なら再取得できるなど、女性に比べてフレキシブルに対応できる面が多いんです。数日から数週間という人もいれば1年間取るという人もいる。家庭の事情や職場環境に合わせることができるということを、もっと多くの人に知ってほしいと思います」

 今回のケースでもう一つ問題となっているのが、「社員が有休消化することを認めなかった」点だ。労働問題などに詳しい弁護士法人・響の坂口香澄弁護士はこう話す。

 「退職日を決めるのは労働者の権利です。今回、退職した社員の妻が言うようにカネカが一方的に退職日を指定し、有給休暇の取得も認めなかったのが事実だった場合は、違法と言わざるを得ません(カネカは「退職日を指定した事実はない」と否定)。転勤辞令も、もしその決定に『男なのになぜ育休なんて取ったんだ』といった不当な動機があることが認められれば、企業側の権利乱用として違法とみなされる可能性があります。

 これだけ企業のコンプライアンスが重要視される時代になったのに、労働者に対して違法な処遇を行う企業はまだまだ多いと感じます。今回のカネカもそうですが、誰もが知る大企業であっても、『えっ』と驚かされるようなことがいまだにあります。転勤命令も、仮に違法性はなかったとしても、共働きで子育てをしている社員に配慮がないと捉えられて企業ブランドを毀損してしまうことにもつながります。企業はこうした社員の処遇について、もっと敏感になる必要があると思います」

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