2019年に創立90週年を迎えた玉川学園は、61万㎡の広大なキャンパスに、幼稚園から大学・大学院までを擁する、総合学園。創立以来の伝統である玉川学園独自の探究型学習の授業「自由研究」や自発的な創意工夫が生まれる「労作教育」に加え、「*STEAM教育」という教科横断的な学びも取り入れた。そんな玉川学園の教育について、4人の先生に聞いた。

触れて、感じて、表現する―――「経験」から得る学びを大切に

 創立以来、「全人教育」を教育理念としている玉川学園は、幼稚園から大学・大学院までがワンキャンパスに集まる総合学園としての環境を活かし、最先端の研究・技術に触れて実践的に学びながら、創造的で国際的な科学技術の未来を担う人材を育成している。

 2008年から、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定。昨年3期目の指定を受けた。2007年からは、世界中の大学への入学資格を得ることができる「国際バカロレア(IB)プログラム」を導入している。  特に中学教育で重視しているのは「経験」だ。中学部長の中西郭弘先生は、「深み・丸みのある大人になるために、授業はもちろん、クラブや委員会活動など学校生活のあらゆる場面で、生徒が“触れて、感じて、表現する”ことを大切にしています」と話す。そんな玉川学園が取り入れた「STEAM教育」も、そうした要素が盛り込まれている。

広大なキャンパス。校庭は芝生

 ちなみに、「STEAM」とは、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、芸術(Art)、数学(Mathematics)の頭文字をとったことば。STEAM教育はこれらの分野の融合教育であり、2000年代になってからアメリカの教育現場で強く推進されるようになった。そんなSTEAM教育は教科横断的な学びであり、玉川学園においてその可能性を模索してきたのが美術科だ。「授業で行った事例としては、身につけられるアートを3Dソフトを使って作成し、3Dプリンターでプリントアウトするといった取り組みなどがあります」と高校の美術科主任の梶原拓生先生は説明する。

 この授業の進行は次のとおり。まず、動植物などをデッサンし、自分なりに自然の中にある美の要素を抽出する。次に古今東西の文化から、興味ある時代を調べ学習し、身につけられる装飾品の形を選ぶ。そして自分が抽出した自然の中の美と、選んだ装飾品の形を掛け合わせて、独自の「WEARABLE ART」を発案。それを制作するに当たり、パソコンで3Dソフトの使い方を練習し、実際に制作する。さらに、制作後には実用性と装飾性の議論などを行うが、トータルするとここまでで10時間ほどになるという。

中学部長 中西郭弘先生

将来就いた職業で創造性を発揮できる人になってほしい

 STEAM教育に力を入れる狙いについては、「デジタルが使いこなせる技術者を養成するためではありません。今どのようなテクノロジーがあるかを知り、それを活用して、自分の進む職業などで創造性を発揮できる人を育てたいのです」と梶原先生。また、玉川学園の美術科では、以上のようなテクノロジーを利用したSTEAM的な作品制作と、従来からある絵画や彫刻のような手作業で行う作品制作の両方が必要であるという考え方に立って、授業を展開しているという。

 「デジタルだけを学んでも、本当のクリエイティビティーは育たないからです。そのため、たとえば11年生(高2)の『美術デザイン』という授業では、週4時間のうち1時間でプログラミングを学習し、残りはデッサンなど手作業での作品制作を行っています。また、12年生(高3)の『美術技法』でも、3Dソフト及び3Dプリンターを使った制作と、ステンドグラスのような手作業で行う作品制作の両方を行っています」(梶原先生)

3Dプリンターなどをそろえた「アートラボ」が始動

 玉川学園の美術教育はIBクラスの設置をきっかけに考え方が変わったという。これについて、中学の美術科主任の瀬底正宣先生は、次のように説明する。

 「IBの美術教育は、これまで日本の学校で行われてきた美術教育とは異なります。評価の対象も、生徒の作品そのものではなく、そこに至るプロセス、つまり何を考え、どういうことをリサーチして、どう表現するかという流れを記録し、それを評価するのです。そのようにIBの美術教育は、美術の素養を広げるために行われるのではなく、社会のいろいろな問題点を見つけ、それに対する答えを出していくトレーニングのために行われているのです。そんなIBの美術教育に携わるなかで出合ったのが、STEAM教育という教科横断的な融合教育です」

高校の美術科主任 梶原拓生先生

 そう語る瀬底先生らが中心となって、この4月には「アートラボ」と呼ばれる工房を工作室の一角に設けた。もともと工作室には各種の大型電動工具がそろっているので、「アートラボ」には新たに3Dプリンターやレーザーカッターといったデジタル・ファブリケーション機器を揃えた。この「アートラボ」は、希望する生徒たちが自由に集える場所であり、昼休みや放課後に集まっては、玉川学園の創設以来の伝統である「労作」などに取り組む。

 「労作」とは、玉川学園の創立者である小原國芳が掲げた「全人教育」の根幹として、大切にされてきた教育の一つ。生徒たちはこの労作に自主的に参加し、学園内の施設や庭造りなど、さまざまな活動を行ってきた。参加することにより、一つの教科ではくくれない多様な学びをできるのが、この「労作」の大きな利点だ。

 たとえば、今進行中の「労作」の一つに、「TAMA TREE プロジェクト」がある。学園内の環境整備で間伐した木材を製材し、木製のテープカッターや椅子を作り、玉川学園の幼稚部へ贈呈するなどといった取り組みだが、パーツの切り出しや、ロゴの焼印などは、「アートラボ」のレーザーカッターで行っているという。

自由研究に全員が取り組み、論文作成のスキルも学ぶ

 玉川学園における教科横断的な学びは、STEAM教育に始まったことではなく、「創立当初より行われている自由研究などは、そのいい例です」と、高等部長の長谷部啓先生は説明する。

中学の美術科主任 瀬底正宣先生

 この自由研究は、創立者の提唱した「自学自律」の精神を具現化した探究型学習であり、さまざまな分野から6年間をかけて自発的に自分の研究テーマに取り組み、12年生(高3)では、研究成果をA4用紙10枚、1万文字程度の論文にまとめる。

 研究テーマは、7・8年生(中1・2)では教科発展的なものだが、10~12年生(高1~3)では、「人文科学(国語/英語)」「社会科学(地歴公民)」「理学工学(数学/理科/情報)」「教育(体育)」「芸術(音楽/美術)」というカテゴリー制に変わる。そのなかで、生徒は自分の研究テーマを自由に決め、担当教員のアドバイスを受けながら研究を進めるのだ。

 「カテゴリーのなかには、複数の教科の教員がいます。たとえば、歴史と文学にまたがる研究テーマの場合は、歴史の先生と国語の先生がアドバイスするというような、教科の連携を行っています」と長谷部先生。本格的に論文を書き始めるのは10年生(高1)からだが、その基礎講座として、9年生(中3)では「学びの技」という年間60時間の授業を受け、テーマに基づいて情報を収集する方法や、集めた証拠資料を整理し、構成を考えて論文を書くスキルなどを学ぶ。

 高校の卒業生の進路としては、例年、約7割が玉川大学にある学部学科以外の研究分野を求めて他大学へ進学する。そうした卒業生の多くがAO入試等を利用し、自由研究の取り組みをアピールして合格するケースが多いという。そんな玉川学園に加わったSTEAM教育を取り入れた教科横断的で創造的な学びは、卒業生の将来の選択肢をこれまで以上に広げてくれるだろう。

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