着替え、歯磨き、片づけ……小さいうちから子どもに身につけさせたい生活習慣はいろいろあります。でも本人たちは、なかなか自主的にはやってくれません。今回は、生活習慣を身につけさせる方法について、教育評論家の親野智可等さんにお話を聞きました。

就学前までに身につけさせたい生活習慣って?

教育評論家の親野智可等さん
教育評論家の親野智可等さん

 「三つ子の魂百まで」や「3歳神話」という言葉、きっと誰でも聞いたことがあるはずです。「3歳頃までに、しつけや情操教育をしっかりしておかないと!」と思っているお母さんたちも多いことでしょう。

 でも、そのために、「早く〇〇しなさい」「〇〇できないとダメじゃない!」とガミガミ言い続けていませんか?叱るばかりでは、良かれと思ってしたことが裏目に出てしまうと、親野さんは言います。

 「なんでもデキパキできる子、のんびりしていて時間にルーズな子、好奇心旺盛だけど飽きっぽい子。いろんな子どもがいますね。同じ親から生まれた兄弟でも、性格がまったく異なることもよくあります。子どもには“生まれ持った性質”があり、その性質は変えることができません」

 このようなことは、子どもの能力の高い低いではなく、もともと生まれ持った性格・性質なのだそうです。つまり、無理に叱って変えようとするものではないのです。

 「あまりにも叱られていると、子どもが“自分はダメな子なんだ”と思い込んでしまうようになります。特に叩くのは最もよくありません。“自分は叩かれる程度の存在なんだ”と、自分を過小評価してしまいます。すると、自己肯定感が持てなくなり、自己否定感に凝り固まってしまう可能性があります」

 とはいえ、「毎日のようにのんびりご飯を食べて遅刻してしまう」とか「きちんと歯磨きできないので虫歯ができてしまう」のでは困ります。いったいどうしたら良いのでしょうか?

普段の生活に工夫を取り入れて、徐々に身につけさせよう!

 「子どもは生まれて数年すれば言葉を話せるようになるなど、新しいものを吸収する能力に長けています。でも、のんびりな子がテキパキ動くようになるとか、だらしがない子が片づけ上手になるなどというのは、新しいものを吸収するということではなく、生まれつきの資質を自己改造するということです。これは吸収力ではできないことであり、強烈な内面的モチベーションとそれに基づく強い意志力が必要です。この2つが持てるのは大人になってからであり、子どものうちに自己改造するのは本当に難しいことなのです。ですから、苦手なことを直そうとして叱りすぎるのはやめて、少しでもやりやすいように工夫をしてあげてほしいと思います」

 そこで、すぐに実践できる具体的な方法をお伺いしました。

時間にルーズなのんびり屋さんには……

 食事中でも、一口食べてはボーッとして、一口食べては何やら手遊び。口をモグモグ動かすのもマイペースで、朝食に30分も40分もかかってしまうようでは、毎日遅刻との戦いです。こんな場合にオススメなのが「卓上アナログ時計と模擬時計」です。模擬時計とは紙に描いた時計の絵のことです。

 テーブルの上に卓上アナログ時計と模擬時計を並べて置きます。模擬時計は「食べ終わる時刻」を指しています。そして、両方の時計を指差し、次のように説明しましょう。

 「今、本物の時計は7時を指しているね。長い針が12のところにあるでしょう?この長い針が5のところまでいくと、絵の時計と同じになるよ。それまでの間に、全部食べようね」

 2つの時計を見比べることで、残り時間が減っていくスピードがわかります。すると、どれだけ急ぐべきかがわかります。

片付けられない&整理整頓が苦手なタイプには……

 大人でも片付けられない人がいるのですから、子どもが上手にできなくてもある意味仕方ありません。それでも、少しでも簡単に楽に整理整頓できるようなアイデアを取り入れれば、片付けやすくすることができます。

1.「分類ごとに袋に入れ、その後箱にしまう」のような複雑なお片づけだと難易度が高く嫌になってしまうことも。「箱に入れるだけ」「引き出しに入れるだけ」のような簡単な収納方法にする。

2.「積み木」「ブロック」などラベリングをして、どこに何をしまうのか一目瞭然にする。

「食事の後は歯磨き」などの習慣が根付かない場合……

 「〇〇が終わったら××しなさい!」と言うと、「はーい」と返事はするのに、一向に行動にうつさない。いつしか忘れて別のことをしている……なんて子どももいます。そういう場合は、次にしなければならないことをあらかじめ準備しておくと良いでしょう。

 例えば、食卓テーブルの上に、コップと歯ブラシを準備しておくという具合です。「夜寝る前に次の日着るものを出しておく」「出かける前に玄関に必要なものを全て揃えておく」など、いろいろなシーンに応用できますね。

できなかったら、悲観せずに手伝ってあげよう

 スムーズに取り組めるように工夫やアイデアを盛り込んでも、なかなかできないこともあるでしょう。休日のお散歩に出かける前のように、時間にも心にもゆとりがあるときには、たっぷり待ってあげるのが良いです。

 洋服のボタンの留め外しをする、靴を脱ぎ履きする、歯を磨いてゆすいだ後に口の周りを拭く……大人ならどうってことなくできることも、子どもは時間がかかります。初めてのことは、なんでもスムーズにはできません。だから、ゆっくり見守ってあげる時間は大切です。

 しかし、毎日の生活の中では、いつもゆとりがあるわけではありません。「あと5分で家を出ないと遅刻するのに、着替えが終わってない」「このペースじゃ、寝る時間までに絶対に片付け終わらないな」という瞬間が、何度だって訪れます。

 「そんなときは、手伝ってあげてください」と親野さんは言います。でも、ここで頭をもたげるのは、「いつまでも手伝ってばかりでは、子どもが自立できないのでは?」という疑問。

 「心配は要りません。3歩進んで2歩下がるどころか、ときには5歩も6歩も下がってしまうこともあるかもしれませんが、何かのきっかけで一気に10歩くらい進んだりする、これが子どもの成長なのです。ですから、長い目で見てあげましょう」

 そこで、親が子どもを手伝うときのポイントをお聞きしました。

 「手伝うときは、楽しい会話をするなど、親子の触れ合いやスキンシップの一環としてやってあげましょう。そうすれば、子どもはますます親の愛情を感じて、親のことがさらに好きになります。そうなると、素直に“言うことをがんばろう”という気持ちも出てきますよ」

 では、シーンごとの具体的な方法を紹介していきましょう。

お着替えをゲーム感覚でやってみる

 例えば、朝の忙しい時間。着替えが苦手な子どもに対して、「まだなの?」とイライラすることがあるでしょう。そんな時は、ゲーム感覚でやってみるのもオススメ。

 「お母さんは上からボタンを留めるから、〇〇ちゃんは下から留めてね。さあ、どっちが早いかな?」と言ってボタンを留め、最後に「上手にできたね!」と褒めます。靴下を片方ずつ担当する、上着のボタン留めなどでも応用できます。

 NGなのが「なんで5歳にもなって、こんなことも自分でできないの!」と嫌味を言いながら手伝うこと。1つでもボタンを留められたら「できたね!」と褒めてあげましょう。

ご飯は最初から食べやすくカット

 ご飯を食べるのがのんびりで困るというケースは少なくありません。そんな時は、最初から一口サイズにカットしたり、ご飯は一口サイズの小さなおにぎりにしたりしてはいかがでしょう?時には「おいしくなーれと思って一生懸命作ったの。食べてくれるとお母さん嬉しいな」と言いながらフォークに刺してあげる、口まで「アーン」と運んであげるのも良いでしょう。

 NGなのは、「せっかく作ったのにムダにして」などと叱ること。本来なら楽しいはずの食事が、苦痛の時間になってしまいます。

お手伝いをしてくれる子を育てるには?

 親が子どもを手伝うときのポイントを伺いましたが、逆に、子どもに家事などを手伝ってもらう「お手伝い」のポイントはあるのでしょうか?自然にお手伝いができる子になる方法をお聞きしました。

お母さんの「困った」を独り言にしてみる

 「独り言」は、子どもにお手伝いをしてほしい時にオススメです。「これからオムレツを作るんだけど、誰か卵を混ぜ混ぜしてくれないかな?」「畳んだタオルがいっぱいでどうしよう?私と一緒に持って行ってくれる人がいると助かるんだけどな」などと言うと、子どもが自主的に手伝ってくれることがあります。

 そんな時は、「すごく助かった、ありがとう」「〇〇ちゃんのおかげで、すごーく早く終わっちゃった」などと、心からの感謝の言葉を伝えましょう。これは子どもにとって、何よりの褒め言葉。「自分が役に立てた」と感じることでお手伝いが続く可能性が高まりますよ。

 NGなのは、お手伝いが続かなかった時に「なんでも中途半端なんだから」などと子どもを否定すること。常に、加点的に考えるようにしましょう。

 「毎日やるお手伝いを決めた場合は、毎日必ず親が見届けて褒めることが大事です。やっていない場合は、やらせてから褒めます。親の見届けが続けば、子どもも続けられますよ。親の見届けがなくなると子どももやらなくなります。そして、親も子どももすっかり忘れて、しばらくしてからふと親が思い出して『やってないじゃないか』と叱るのは一番ナンセンスです」

 できなくても嫌味を言わず、また仕切り直して1から始める。そんなペースで取り組み、できた時は目一杯褒めてあげてあげましょう。

 また、ずっと同じお手伝いだと、子どもは飽きてしまうこともあります。そろそろ飽きてきたなと感じたら、別のお手伝いに変えるといいでしょう。すると、新鮮な気持ちで取り組めます。

子育ての今日一日を楽しみ、子どもに愛情を目一杯伝えてあげて

 家事も育児も、そして仕事も。親は本当に大変です。優しくしようと思っても、どうしてもイライラしてしまうこともあるでしょう。最後に親野さんから、そんな葛藤とも戦いながら子育てをがんばるお父さんお母さんにメッセージをいただきました。

 「お父さんお母さんには、『子育ての今日1日を楽しんで!』と伝えたいですね。子育てを難しく感じるかもしれませんが、一番大切なことはシンプルです。『あなたは私たちの宝物だよ』『生まれてきてくれてありがとう』、実際に口に出して伝えてあげてください。眠る前に抱きしめてあげるなどのスキンシップも大切にしてほしいです。このように、その子の存在を無条件に丸ごと肯定してあげることが大事です。これによって、子どもも自分を肯定できるようになり心が満たされて安らかになります。また、お父さんとお母さんのことがますます大好きになりますよ。イライラすることがあっても、子どもへの愛情を噛みしめながら、毎日を楽しんでくださいね」

親野智可等さん

親野智可等さん 教育評論家。公立小学校で23年間教師を務めた後、現職へ。著書に、『ドラゴン桜 わが子の「東大合格力」を引き出す7つの親力』(講談社)、『「親力」で決まる! 子供を伸ばすために親にできること』(宝島社)ほか多数。メルマガの「親力で決まる子供の将来」は、具体的ですぐに取り入れられるアイデアが多いことで人気を博し、読者は4万5000人を超える。ブログ「親力講座」は月間25万PV。

この記事は、大和証券が運営する子育てとお金の情報サイト「SODATTE」の記事を、日経DUALに転載したものです。SODATTEには、本記事のような子育てとお金にかかわる役立つ記事が豊富に掲載されています。ぜひ、一度アクセスしてみてください。

関連記事
⼦どもの学⼒を伸ばすには「遊び」が⼤事︖就学前にさせておきたい学習とは
⼦どもの素朴な疑問にどう答える︖専⾨家直伝の“上⼿な答え⽅”で、考える⼒を 育む︕
デジタルネイティブ世代の⼦育て、スマホはいつから︖タブレットで勉強させて いい︖