何かにつけて「なぜ?」「どうして?」と聞いてくる子どもたち。素朴な疑問の中には、どう答えればいいのか悩んでしまうものもあります。安易に誤魔化すことなく、子どものためになる答え方をしてあげたいですね。答え方によって、子どもの考える力が育まれたり、悩みが解決できたりすることもあります。

 そこで、子育ての専門家である田宮由美さんに、子どもの疑問への良い答え方を教えていただきました。

子どもの疑問に答える時の心構えとNG対応

 子どもの疑問は、時と場所を選ばず突如やってきます。忙しい時は「あとでね」と流したくなったり、煩わしさを感じたりすることもあるかもしれません。

 子どもに質問されたとき、親の対応としてやってはいけない行為にはどのようなものがあるのでしょうか。

 「面倒だからと話をはぐらかしたり、『つまらないこと言ってないで、さっさと勉強しなさい』と言ったりはしないようにしてください。また、『先生に聞きなさい』と回答を人に押し付けるのも避けましょう。質問する意欲を低下させることに繋がりかねません。まずは、『そんな不思議に気づくなんてすごいね』と、その疑問を持ったことを褒めてあげてください」

 短い時間でも子どもの疑問に向き合うことが大切だと田宮先生。説明する時は、年齢や理解力にあわせた言葉で、内容をかみ砕いてあげましょう。

 しかし、小さい子どものわかる言葉にかみ砕くのが難しいことや、自分自身がわからないこともあるもの。そんなときは、調べる活動につなげていくのも良い方法だと田宮先生は言います。

 「まずは『すごい不思議をみつけたね、そんな疑問を持った○○ちゃんは、本当に細かいところまで見ているね』など感心した気持ちを伝えましょう。その上で、『難しいから、一緒に調べてみようか!』と分からないことを調べ、学ぶ活動に結び付けられるといいですね」

考える力を育むには、質問に答えすぎない方がいい?

 子どもの「なぜ?」「どうして?」にたくさん答えていると、自分の対応が正しいのか不安が出てくることも。

「子どもの質問全てに親が答え、簡単に回答を得ていると、自分自身で考えないようになるのでは、という不安を持たれる親御さんもいるかもしれません。しかし、『子どもの考える力を育む』という観点から言うと、むしろ他の要因の方が影響は大きいでしょう。例えば、ゲームばかりしていたり、テレビがいつもつけっ放しであったりすると、自らの考える力を阻みます。考える力を育むには、子どもの疑問には丁寧に対応し、そこから興味関心を高め、更なる深い疑問を抱くようにした方が効果的でしょう」

 さらに、子どもが自分で調べやすい環境をつくってあげることも重要とのこと。「例えば、図鑑や本を子どもの手の届きやすい場所に置いたり、図書館へ行って調べ物をする習慣をつけたりするとよいでしょう」

 それでは、子どもの考える力を伸ばし健やかに成長させるために、質問にどのように答えるといいのか、具体的な例を伺いましょう。

「雲って何でできてるの?」「お月様はどうしてついてくるの?」など、自然現象への疑問にはどう答える?

 「子どもは成長とともに、身の回りの身近なことから、自然現象や科学的な事象などへ、興味関心を持つ範囲や視野も広がってきます。このような質問の場合は、自然現象を分かりやすく、子どもが理解できる言葉に置き換えて話し、できればそれを証明するような実験も交えて説明してあげるといいでしょう」

 例として、雲と月に関する疑問への答え方を伺いました。

 「雲のでき方への疑問は、『雲は、水や氷の粒でできているのよ。海や川の水が空気に混じって、お空に運ばれていったの。高いお空で冷やされて粒になって、それが集まったものが雲なの』と説明できます」

 しかし、これだけだと年齢によっては理解しにくいかもしれません。そんなときは“実験”をするのがおすすめだと田宮先生は言います。

 「例えば、夜コップに水を入れて翌朝減っていることを確認する実験をします。『水はどこへいったと思う?空気に混じって、お空に運ばれていったのよ』と実際に目で見える状況を作って、さらに説明すると理解しやすいですね」

 また、お月様の疑問に対しては、「お月様はね、すごくすごく遠くにあるの。だから少しくらい歩いて離れても、ついてくるように感じるのよ」などと答え、理解が難しい部分は、1つ1つ例を出して説明するのが良いと田宮先生。

 「例えば、実際に、遠くのビルと近くの家を目印にし、歩いて実験してもよいですね。遠くのものは歩いて離れても位置が変わらないように感じることを伝えましょう。月までの距離の遠さは『新幹線で行ったら53日くらいかかるそうよ』などと説明してあげるとわかりやすいかもしれません」

「赤ちゃんはどこから来るの?」「どうしたら弟や妹ができるの?」という答えにくい疑問にはどう答える?

 「小学校低学年くらいまでは、医学的なことや性的なことに関心があるのではなく、弟や妹が欲しいと気持ちがあって尋ねてくることが多いでしょう」

 つまり、具体的な仕組みを説明する必要はない場合が多いということ。

 「『コウノトリが運んでくる』といった話も昔からありますが、この場合は弟妹が欲しい気持ちに寄り添ったり、“命の尊さ”への気づきを与える話をしたりするといいですよ。『赤ちゃんはお母さんのお腹の中から来るの。○○ちゃんがこの家に生まれてきますようにと一生懸命お願いしたのよ。○○ちゃんが生まれてきてくれて、すごく嬉しかったわ』と子どもが大切にされていることを伝えると良いでしょう。医学的な用語を使っての説明や性教育は、これから先、授業などで知る機会があります。しかし『命の尊さ』を感じる心を育むのはこの時期です。ぜひ、心を込めて『○○ちゃんは宝もの』とハグなどしながら答えてあげるといいですね」

 素朴な疑問が、子どもへの愛情や命の大切さを伝える良いきっかけになりそうですね。

「なんでうちは海外旅行に行かないの?」「フィギュアスケートを習ってもいい?」など、家庭の事情を理解していないために生まれる疑問にはどう答える?

 親心としてはなかなかシビアなこの手の質問。でも、決して頭ごなしに「うちは行かないのよ!」「ダメ!」とは返さないでほしいと田宮先生は言います。

 「まずは、『○○ちゃんは海外旅行にいきたいんだね。外国ってどんなところか興味あるよね』『お友達がフィギュアスケートを習っているの?○○ちゃんも習ってみたいのね』と子どもの発言を受け入れてあげましょう。

 その上で、家庭の事情を丁寧に説明するとよいでしょう。『お父さんもお母さんもお仕事が忙しくて、今はお休みが取れないの。長いお休みをいつか取れるようにするから、それまで待っててね』『日本国内にも素敵なところがたくさんあるから、まずは国内の素敵な場所に行ってみない?○○ちゃんが大きくなって海外に行きたくなったら、お母さんを連れていって案内してくれたら嬉しいわ』など各家庭の事情を正直に話せばよいと思います」

 ここで大切なのが、事情を話すのと同時に“代替案”を出すことなのだそう。

 「『その代わりに、近くの公園に何回も一緒に行って、遊ぼうね』『今度の日曜日、遊園地に連れていってあげるね』『毎日、寝る前に絵本を読んであげるわ』など、今できる範囲で、子どもが喜ぶようなことを考えて提案してあげましょう。親が最も考えなければならないのは、子どもの健やかな成長です。それは大人の事情で左右されるものではありません。小学校高学年頃になると家庭の状況も理解できはじめるので、親子の信頼関係がしっかり育まれていれば、『大変な中、よく一緒に遊んでくれたな』というように親の気持ちを理解してくれますよ」

 また、家庭の事情が大きく影響する“習い事”についても、同じように、丁寧な説明と代替案を出すことが良い方法だと言います。

 「友達が習っているから同じものを習いたいと言った場合、金銭面や、送り迎えの問題などで難しいようでしたら、『○○ちゃんは踊るのが好きなのかな?それなら、フィギュアスケートも素敵だけど、ダンスも楽しそうよ。一度ダンスの体験レッスンに行ってみようか』などと、子どもが興味を持っていそうなことで、家庭の状況で可能な習い事を代わりに提案してみるといいですね。友達が習っているからという動機の場合、他に興味が移れば習いたいことも変わっていくでしょう。

 また教育方針から、何種類もの習い事をさせたくない場合は、例えば、水泳を習っていて、サッカーも習いたいと言う子どもに対しては、『スイミングとサッカー、両方習うと疲れて、どちらも中途半端になるから、スポーツ系の習い事はひとつにしよう』と説明したり、習い始めたものを辞めて他の習い事をしたいと言った場合は、辞め癖がつかないように『一旦習ったら、最低1年は続けて、それから次の習い事を考えましょう』など、親の教育方針とその理由を子どもに分かるように説明したりするとよいでしょう。

 教育方針とは、子どもの生きる力を育むため、子どもをよりよくするためのものです。その教育方針が、子どもの意欲の芽を摘み取っていないか、親の価値観を押し付けていないか、再度考え、子どもの気持ちに寄り添い、子どもの声に耳を傾けてあげたいですね」

「保育園(幼稚園)に行きたくない。なんで行かないといけないの?」という疑問に、どう答える?

 表向きの説明なら、「もうすぐ小学校へ行くからその練習よ」と答えれば良いのでしょうが、それで済ませてはいけない場合もあります。

 「この質問をしてくる場合は、大抵隠された理由があります。園でお友達とケンカをした、先生に叱られた、朝早く起きたくないなどの理由がある場合は、デリケートに対応しましょう」

 まず、すべきことは「なぜ行きたくないのか」を質問で返すこと。

 「行きたくなかったら無理して行かなくてもいいと言ってあげてもいいと思います。なぜ行かないといけないのかと尋ねるということは、『行かなければならないもの』と分かっているから。『行きたくないけど行かなきゃ』と子どもなりに葛藤を抱えているんです。そのため、無理に行かせようとすると『自分の気持ちをお母さんは分かってくれない』と、親への不信感を抱いたり、追い詰められた気持ちになったりする場合もあります」

 子どもの答えによっては、園の先生に相談するなど、行きたくない原因を改善できる対応をとると良いでしょう。「朝、もっと寝ていたい」というのが本音なら、早く就寝するように習慣付けるといいですね。

「『今どこに住んでるの?』と聞かれて『日本』と答えたら笑われたのはなんで?」など、コミュニケーションにまつわる疑問にどう答える?

 大人でもコミュニケーションで正解を出し続けるのは難しいもの。子どもならなおさらです。

 「このような場合、まずは、『○○ちゃんは確かに日本に住んでいるよね、あっているわよ』と、「日本」という返事が正解の一つであることを認めてあげましょう。その後で、相手の気持ちを考えさせるように『どうして笑ったのかしら?尋ねた人は、なぜ住んでいる所を聞いたと思う?』と一緒に考えるように話を持っていくといいですね。『○○ちゃんのおうちに遊びに来たかったかもしれないね』『日本じゃあ、広すぎて探すの大変ね!』というように、住所を教える答えもあることを気づかせてあげると良いでしょう」

素朴な疑問に隠されている“子どもの本音や気持ち”に寄り添って

 「なぜ、そんな質問をするのだろう?」と時に首を傾げたくなることもある、子どもの疑問。心も体もぐんぐんと成長していく中で、大人には見えない“不思議”が常に見えているのでしょう。でも、実は、もしかしたら答えを知りたい気持ち以外に、抱えているものがあるかもしれません。

 「小学校低学年くらいまでの子どもの場合、親とのふれあいを求めている場合や、隠された真意に対しての返答を求めている場合が多いもの。正論を言うことが必ずしも疑問解決にならないことを知っておいてください。的確な答えを出せなくても、大好きなお母さんお父さんが、自分に向き合い話してくれているだけで満足することも多いですよ。逆に、質問に隠された意図がある場合は、正論や真実を説明しても、納得のいかない場合もあるでしょう」

 でも、いずれの場合も、疑問を抱き、質問することは成長のステップ。質問に親がどう向き合うかで、その子どもの価値観が方向付けられ人間形成されていきます。

 「親も忙しかったり、体調がすぐれなかったりと、子どもの質問につきあえず、後の対応になることもあるでしょう。それはそれで子どもに事情を話せば大丈夫。とはいえ、どのような場合でも、子どもが何らかの関わりを親に求めて尋ねてきているも事実です。子どもの真意は大切にして、丁寧に対応してあげてくださいね」

田宮由美さん

田宮由美さん 子育ち支援士。小学校教諭・幼稚園教諭・保育士。幼児教室の指導者、公立幼小学校勤務を経て、2010年「子ども能力開花くらぶ」開設。「能力は心の自立の上に開花する」の理念の元、その子育て法を広める活動を始める。小児病棟慰問、他ボランティア活動など、他方面から多くの親子に関わり、実生活に落とし込んだ記事に定評がある。著書に「子どもの能力を決める0歳から9歳までの育て方」(KADOKAWA)。

この記事は、大和証券が運営する子育てとお金の情報サイト「SODATTE」の記事を、日経DUALに転載したものです。SODATTEには、本記事のような子育てとお金にかかわる役立つ記事が豊富に掲載されています。ぜひ、一度アクセスしてみてください。

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