教科や学年の枠を超え、外部にも広く開かれる「KSプロジェクト」

──「思考力・判断力・表現力」を養う教育としては、どのようなものがありますか。

中田 本校ではこれまで、社会科総合学習、理科の生徒参加型授業、芸術教育(油絵、演劇など)を導入してきました。STEAM教育を充実させるために、理科館の新築にも着手し、2021年夏の竣工をめざしています。

 それらに加えて、2017年からスタートしたのが「KSプロジェクト」です。形態上の特徴は、各教科のカリキュラムや通常授業の枠を超えた学びを展開することです。脱文理分割の学びの場でもあります。曜日、時間、場所、学年も、何ら制約なく自由に設定できるようにします。

 学習内容の特徴としては、生徒たちの「とがった」興味・関心を深く掘り下げるような講座にします。変化の激しい現代社会においては、常に学び続ける姿勢が求められます。中高時代に、自分の興味・関心を研ぎ澄ます濃密な時間を経験することによって、持続的な学習意欲を培うことが目的です。

 また、学内で自己完結させることなく、学外のコンテストにチャレンジするなど、何らかの形で外に開かれた講座にします。未来を切り拓く新しい価値、真の意味でイノベーティブ、クリエイティブなものは、ゼロからいきなり生み出されるものではありません。まったく異なると思われていたもの同士が、いくつかの偶然が絡むことで関連づけられ、化学反応が起こることによって生み出されます。そうした偶然性を起こすには、オープンな学びの姿勢を習慣化することが大切なのです。

 従来の本校の改革は、コミュニケーション力を高めるために「プロジェクト・アドベンチャー」を導入するなど、プログラムを通して育む能力が明確でした。アウトカムベースの改革だったといってもいいでしょう。それに対して、「KSプロジェクト」では、あえて計算不可能な、偶然性に満ちた学びの場を設計します。その意味でも、本校の学校改革は新たなフェーズに入ったといえます。

──「KSプロジェクト」の具体的な中身を紹介してください。

中田 最も人気が高いのが「プログラミング講座」です。2018年の夏の集中講座では、本校OBのドリコム・内藤裕紀代表の支援を受けました。日本を代表する起業家から、貴重な話を聞ける機会も設けられ、生徒にとって刺激的な場になりました。

 「言語系外部コンテストにチャレンジ」では、俳句甲子園やビブリオバトルなどへの出場をめざしています。すでに俳句甲子園で優秀賞を受賞した生徒も出ています。  国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)について議論する「SDGsゼミ」では、ジェンダー班が、国連大学で開催された大会に参加。男子の視点からジェンダーの平等実現に関する提言を行いました。

 そのほか「Kaijo Timesで世界へ発信」「生物・化学実験の動画を撮ろう」などの活動があります。いずれも教科や学年の枠を超え、外部と開かれた取り組みになっており、創造的思考力の向上につながっています。

「KSプロジェクト」は、教科の枠を超えた、生徒の興味・関心を掘り起こす講座<br>(上)最も人気がある「プログラミング講座」ではiPhoneのアプリ開発を行う<br>(下)「SDGsゼミ」における生徒たちによるワークショップ形式の授業–
「KSプロジェクト」は、教科の枠を超えた、生徒の興味・関心を掘り起こす講座
(上)最も人気がある「プログラミング講座」ではiPhoneのアプリ開発を行う
(下)「SDGsゼミ」における生徒たちによるワークショップ形式の授業–

JAXAなどと共同で、非認知スキルの評価法・訓練法に関する研究も始動

──2019年からJAXA(宇宙航空研究開発機構)などとの共同研究に、実践校として参加することになっていますね。

中田 JAXAとSpace BD、Z会グループが「宇宙イノベーションパートナーシップ」という枠組みの中で行う「次世代型教育事業創出」の研究に、実践校として参加することになりました。研究のメインテーマは「非認知スキルを向上させる教材の開発」です。非認知スキルとは、新しい学力観の第三要素である「主体性、多様性、協働性、学びに向かう力、人間性」などのことです。可視化が難しく、どのように育成して、どう評価すればいいのか、学校現場で大きな課題になっていました。

 宇宙飛行士は、国籍や専門が異なるメンバーが集まり、きわめて狭い空間の中で協働する力が要求されます。ストレスがたまり、対立が生じれば、思わぬトラブルが発生する可能性があります。その危機を乗り越えて、協力して問題解決に当たるためには、高い非認知スキルが必要になります。そのため、JAXAには、宇宙飛行士にふさわしい非認知スキルを備えているかを評価する方法や、非認知スキルを強化する訓練法などのノウハウが蓄積されています。それを参考にして、教育に活用することが、今回の共同研究の目的です。今後、本校で実証実験が進められていくことになります。これまでの本校の改革において、最も立ち遅れていたのが非認知スキルの評価(アセスメント)でした。その部分が補完されれば、非認知スキルを強化する教育がさらに充実したものになることが期待できます。

自分の活動を振り返り、さらなる成長につなげる「eポートフォリオ」

──2020年の大学入試改革に関連した改革はありますか。

中田 すでに早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学、東京理科大学などの難関私立大学では、出願段階で、学力の3要素に関わる経験を生徒自身が記入した書類の提出を求めています。そこで、2017年から導入したのがeポートフォリオです。ただし、大学入試に役立つからという理由だけで導入したわけではありません。実は、ベネッセの報告によると、同様のeポートフォリオを採用している学校の中で、本校の生徒の書き込み量はトップクラスだそうです。一般的には、「何をしたか」、活動内容を書くだけで終わる生徒が多いのですが、本校の生徒の場合は「活動を振り返って、成功・失敗の要因など、どんなことに気づいたか」「それを踏まえて、次はどう改善すればいいか」という3段階の思考プロセスができているのです。これは、「プロジェクト・アドベンチャー」をはじめとする多様な活動を実施した後、必ず皆で集まって、振り返り、気づきを与え、次の異なる活動にも活用する学びを行っているからです。皆で話し合う中で、共感が生まれ、自分一人では到達できない高みをめざすこともできるのです。eポートフォリオも、自分の活動を振り返り、気づきを生み出し、さらなる成長につなげるツールとして、生徒が十分に活用するように指導していきたいと考えています。

海城中学高等学校の詳しい説明はこちら
「子どもが輝くための私立中高一貫校ガイド」はこちら