大人と同じように忙しく過ごす現代の子ども達。睡眠不足や睡眠の質の低下は、学習や成長にも悪影響を与えることが科学的にも立証されてきました。元気いっぱいに過ごすための生活習慣の見直しや声かけについて、理化学研究所・生命機能科学研究センター上級研究員、大阪市立大学健康科学イノベーションセンター センター副所長、子どもウェルネス創出事業化コンソーシアム座長の水野敬さんにお話しいただきました。さらに、水野さんと共同研究を進める、積水ハウス住生活研究所長の河崎由美子さんには、健やかな成長のための住空間について教えてもらいました。

「子どもウェルネス」を育むために欠かせない上質な睡眠

 ステイホーム期間中の4月24日(土)に子育て世代のママパパ500名に向けて開催されたオンラインセミナー。その前半は、疲労科学、脳神経科学を研究する水野敬さんによる「子どもウェルネスを育むために」と題した講演です。

<b>水野 敬</b>さん<br> 理化学研究所・生命機能科学研究センター上級研究員、大阪市立大学・健康科学イノベーションセンター センター副所長、子どもウェルネス創出事業化コンソーシアム座長。専門は疲労科学、脳神経科学
水野 敬さん
理化学研究所・生命機能科学研究センター上級研究員、大阪市立大学・健康科学イノベーションセンター センター副所長、子どもウェルネス創出事業化コンソーシアム座長。専門は疲労科学、脳神経科学

 「子どもウェルネス」とは、精神的・身体的に健康な状態ということだけではありません。子どもがもっと前向きに、いきいきと意欲的に充実した日々を過ごし、その積み重ねによって多様な能力、個性、知性、感性、社会性など、豊かな世界観をどんどん育んでほしいという願いを込めて、水野さんが提唱している幅広い概念のことです。

 現代の子ども達を見ていると、1日の活動時間が長く、大人と変わらないほど忙しく過ごしていて、様々な習い事もこなしているようです。しかし、多様な技能を身につけるだけでなく、子どもにとって重要なのは、立ち止まって物事に疑問を持ち、考え、アイデアを提案する脳づくり。そのためには心穏やかに過ごす時間や空間が必要ですし、睡眠をきちんととり慢性的な疲労に陥らないようにすることも重要だと水野さんは言います。

 また水野さんは、2016年度に大阪市淀川区内の小中学校を対象に行われた大阪市立大学による「ヨドネル大規模調査」で、子どもの睡眠時間が圧倒的に少ないことを問題視。本来、必要な睡眠時間は小学生で9~12時間、中高生でも8~10時間とされているにもかかわらず、実際は小6で平均8時間24分、中1で平均7時間46分という結果に。また、睡眠時間の減少に比例して疲労が蓄積し、学習意欲も低下することも分かっていて、特に小6から中1になるタイミングでは学習意欲の低下が顕著に表れています。

出典:2016年度に実施された大阪市立大学による大阪市淀川区内の23の小中学校を対象としたアンケート調査研究「ヨドネル大規模調査」(n=5285)
出典:2016年度に実施された大阪市立大学による大阪市淀川区内の23の小中学校を対象としたアンケート調査研究「ヨドネル大規模調査」(n=5285)

 「十分な睡眠時間は記憶の定着にもつながり、免疫細胞を活発にしてくれるなどのメリットも。一方、睡眠時間が不足すると慢性疲労に陥りやすくなり、不登校のリスクも高まるだけでなく、社会人になった時のメンタルヘルスが心配されます。社会人として必要な資質『身体的かつ精神的な強さ』を育むためには健康力が必要」と水野さんはいいます。