大ベストセラーで映画『ビリギャル』の原作にもなった『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)や『才能の正体』(幻冬舎)など多数の著書を持ち、坪田塾塾長として数多くの生徒の意欲と学力を上げ続けている坪田信貴さんに、子どもに自立心を高める方法や、親の子どもに対する正しい関わり方などについて聞きました。前後編の2回に分けてお届けします。

(日経DUAL特選シリーズ/2020年6月9日収録記事を再掲載します)

「できる子」の親には、共通項がある

 これまで1300人以上の生徒を指導し、数多くの親子と接してきた坪田塾塾長の坪田信貴さん。『ビリギャル』主人公のさやかちゃんのように、成績が悪く、周りからさじを投げられているような子どもでも、本人の意欲を高めさえすれば学力を大きく伸ばすことができることを、これまでの指導で証明してきました。

 そんな坪田さんに子どもを伸ばすための正しい親の関わり方などを聞いた今回のインタビュー。まずは、「成績優秀な子どもの親」が普段からどのように子どもと関わっているのか、聞いてみました。

 「私の塾では、入塾前にまず、親子で面談に来てもらうことを基本にしているのですが、部屋に入ってきた瞬間から、優秀な子どもは『この子は優秀だ』と分かるんです。さまざまなことに目配り、気配り、心配りができる。こちらが一つ質問をすると、本質的なことを理解したうえで返事をしてくれる。学校の授業も、きっとそういう姿勢で聞いているのでしょうし、部活動や課外活動を頑張って充実した毎日を送りながら、成績も良い。そういう子は、親に言われて塾に来るのではなく、『短い時間で、いかに結果を出せるかを知りたい』などと目的意識を明確にしてやってくるんですよね。すごいなあと思ってしまいます」

 そういう「できる子」の親には、共通項があるのだそう。

坪田塾塾長の坪田信貴さん
坪田塾塾長の坪田信貴さん

 「親御さんに『お子さんはなぜ、こんなにしっかりしているんですか?』と聞いてみると、皆さん一様に、『私は何もしていないんですよね~』とおっしゃるんです。

 親がそういう接し方だと、忘れ物をしたり、人前で恥ずかしい思いをしたりするのは子ども自身なので、必然的に親任せにすることがなくなり、子ども自身に自立心が芽生える、ということなのだろうと私は考えています。

 逆に言うと、親がしっかりし過ぎていると、子どもが受け身になってしまう傾向があるように思います。子どもの持ち物を何もかも準備したり、次はあれやれ、その次はこれやれと指示したり、敏腕イベントプロデューサーのように仕切る有能な親がそばにいたら、言うとおりに動く方が効率的。だから、子どもが“指示待ち人間”になってしまうのです」

 優秀な子どもとその親の様子を観察すると、親子の会話もほのぼのとしている場合が多いと言います。

 「塾の面談に来た理由を聞いても、お母さんからは『子どもが行きたいと言うから、よく分からないまま連れてこられただけで、私はよく分かりません』などと返答することが少なくありません。『私はいつも子どもに怒られるばかりで』というのもよく聞くセリフで、実際に子どもから何か怒られても、おおらかに、ニコニコと笑っていたりする。細かいことをガミガミ言っていたら子どもの自立心は育まれませんから、子ども自身に判断させ、子どもの主体性を大切にするのは、理にかなった言動と言えると思います」

 その意味では、親が子どものそばにずっと付き添って、「あれをしなさい、これをしなさい」などと細かく管理することができない共働きの家庭は、実はちょうどいい距離感を保てていると言えるかもしれません。

 ただ、子どもに任せ、子どもの自主性を尊重することが大切と言っても、放置するだけでは親の目が行き届かなくなると不安を感じることもあるかもしれません。親はどのような距離感で子どもと関わればいいのでしょうか。