教育改革の一環として進められている「大学入試改革」により、2020年度から「大学入試センター試験」に代わって「大学入学共通テスト」が実施されるようになります。改革を進める文部科学省には、急激に変わりゆく社会に対応できるように、学力の3要素である「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を身に付けさせる狙いがあるといいますが、では、これまで大学受験に強いと言われてきたような私立の中高一貫校は、こうした現状をどのようにとらえているのでしょうか。また中学受験は変わってきているのでしょうか。

 難関私立校として知られる灘中学校・高等学校の和田孫博校長と、SAPIX YOZEMI GROUPの高宮敏郎共同代表に、私学と中学受験の今について、そして今後子どもたちに一層求められる「読解力」について、対談していただきました。

私学は学校ごとの特色を持った教育がしやすい

高宮敏郎氏(以下、敬称略) 和田校長は、講演会で私学の良さについてお話になられていましたが、改めて、中高一貫校の私学の良さについて、お伺いできますか。

和田孫博校長(以下、敬称略) 中高一貫校の私学には、これからの生徒たちに求められる学力の一つ、主体性・多様性・協働性が育める環境があることですね。

高宮 「主体性・多様性・協働性」は社会で独立して活動するのに必要な、これからの時代に社会で暮らしていくために必要な力として、2020年の大学入試改革では「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」と共に、学力の3要素の一つに挙げられています。それが、私学では育みやすいと。

和田 公立はどうしても、均質な教育にせざるを得ない環境にありますが、私学は学校ごとに特色を持った教育をしやすいわけです。

高宮 生徒の多様な能力に、柔軟に対応できることも私学の特徴ですね。

和田 灘校にはありませんが、芸術コース、数学に特化したコース、スポーツなどアスリートコースなどコース制を取る私学も多く存在します。あるいは能力別クラス編成も可能ですし、クラブ活動や課外活動を充実させることも可能です。

中高一貫校は思春期・反抗期への対応もしやすい

高宮 中高一貫校だからこそ、長期展望が可能ということもありますね。

和田 そうですね。3年ではなく6年を見通したカリキュラムが組めますし、成長過程をずっと見ていけるわけですから、思春期・反抗期への対応もしやすくなりますね。また、公立は配転がありますが、例えば灘校なら教職員の定着率が高く、定年までいるので、卒業して10年ぶりに学校に帰ってきても、習った先生が元気でいる。となると母校愛もできてきますし、OBとのつながりも強くなります。
 もちろん必ずしも、私立中学、高等学校に進んでもらわなければとは考えていませんが、学校を選ぶ基準として、私立が公立よりも多様で、個性的だとは言えます。宗教に根差している学校もあれば、大学が併設されている学校もある。学習塾に通わせる必要がないほど授業時数が多い学校もありますし、自主性を広く認める学校もある。子どもの個性に合わせて学校を選ぶことで、その子どもの個性を伸ばすということにおいては、私学は適しているのではないかと思います。

SAPIX YOZEMI GROUPの高宮敏郎共同代表(左)と灘中学校・高等学校の和田孫博校長(右)
SAPIX YOZEMI GROUPの高宮敏郎共同代表(左)と灘中学校・高等学校の和田孫博校長(右)
<次のページからの内容>
● 2020年の教育改革で私学の入試問題は変わってきている?
● 自分で説明していく能力が問われるようになってきた
● 中学入試では全教科、読解力が問われる
● 未就学児期からの活字慣れが課題に
● 興味を持てるように活字をいろんな形で「置いておく」工夫を