尊敬、共感、思いやりを教育の軸に置く

 ニュージーランドの教育の中で重視される「価値」には様々な項目がありますが、特に大事なのが“Respect=尊敬”“Empathy=共感”“Compassion=思いやり”の3つ。まずは、一人ひとりの子どもは異なり、それぞれの個性やバックグラウンドを持っていることに対する「尊敬」の念。これは、同時にみんなを平等に扱うということでもあります。平等に一人一人が大事であるという意識を必ず持つことです。

 そして、「共感」と「思いやり」を持って接することで、押し付けることなく教師も生徒から互いに学び合い、生徒同士、教師同士も学び合うことができるのだといいます。他にも、価値には、“Diversity=多様性” “Inquiry&Curiosity=探究” “Equity=平等” “Community&Participation=コミュニティーと参加”などがあり、どれも人を育てる核として忘れてはいけないことだとヤングス博士は強調します。

 「さらにそれを教師が“Heart=心”“Head=頭”“Hands=手”の3つのHを使って伝えていく必要があります。どれか1つでも欠けてしまうと、生徒には届かないでしょう。どうやって伝えるか頭で考え、生徒一人ひとりのことを知り思いやる心を持ち、そして手や体を動かして向き合うのです。この3つは固いロープのように絡み合って1つの大きな力を発揮するのです」とヤングス博士。

全員で協力が求められるワークショップ。一人ひとりが異なる絵を持ち、ストーリーの順番に相談して並べ替えていく。初めて同士でも場が盛り上がる
全員で協力が求められるワークショップ。一人ひとりが異なる絵を持ち、ストーリーの順番に相談して並べ替えていく。初めて同士でも場が盛り上がる
全員で協力が求められるワークショップ。一人ひとりが異なる絵を持ち、ストーリーの順番に相談して並べ替えていく。初めて同士でも場が盛り上がる

 一見、当たり前のことのような価値や生徒への姿勢ですが、これらを実際に日常の中で考えて実行していくことは容易ではないでしょう。

 ニュージーランドでは、それを何度も教師同士が互いに問いかけ合ったり、振り返りをして(Inquiry&reflection)、日々の中で埋もれることがないようにしているのだといいます。事務的な会議時間を減らす学校も増えているそうで、その時間を授業設計や教師同士の学び合いの時間に費やすことができるようになっています。

 まさに、こうした双方向の探究をすることで子どもたちの教育に本当に必要なもの、無駄な部分がそれぞれより明確に分かるようになったそうです。日本でも教師の働き方改革で目指そうとしている、効率的に時間を使うイノベーションが、ニュージーランドの学校ではすでに進んでいることが分かります。