2021年5月28日公開の映画『明日の食卓』で、仕事とワンオペ育児に追われ、その重圧から自分を見失っていく母親を演じている菅野美穂さん。自身も、ドラマや映画などで活躍しながら、プライベートでは5歳の長男と2歳の長女の育児に奮闘する日々を送っています。そんな菅野さんの、ワーキングマザーとしての「今」、そして「これから」とは――。前編の今回は、菅野さん自身が子育てで経験した悩みや気づきについて、聞きました。

「どんなことでも受け止めます!」という気持ちでいたんですが…

日経xwoman DUAL(以下、略) 菅野さんは現在、2人の子のママとして、出産後も連続ドラマや映画などで活躍していますね。

菅野美穂さん(以下、菅野) 私は10代でデビューしてから、20代30代と思い切り仕事をさせていただいて、その後妊娠・出産をしました。自分としても納得がいっていたし、精神的にもタフになっていると思っていました。

 育児に関しても「どんなことでも受け止めます!」という気持ちでいたんですが、甘かったですね(笑)。世の中にこんなにも大変なことがある、ということに驚きました。

インタビューに答える菅野美穂さん
インタビューに答える菅野美穂さん

―― 『明日の食卓』には、同じ「ユウ」という名前の男の子を育てる3人の母親が登場します。菅野さんは、育児に追われながら、仕事復帰を目指してもがく母親・留美子の役を演じていますね。働くママとして共感する部分もあったのでは?

菅野 留美子は、夫と歯車が合わず、ワンオペ育児でへとへとになり、子どもを大声で叱ってしまうんですけど、他人事とは思えない場面がたくさんあると思います。

 椰月美智子さんの書かれた原作小説に「子どもがいて、たのしかったことと大変だったこと、これまでどちらが多かっただろうかと留美子は考える。大変だったことのほうが断然多かった。」という文章を見つけたときは、共感しました。育児は楽しくて幸せだけれど、余裕がなくてそう思えないときもある、そんな葛藤を映画で表現できたら、と。

映画『明日の食卓』の1シーン。ワンオペ育児と仕事で余裕をなくす母親役について「他人事とは思えない場面があった」と菅野さん。(C)2021「明日の食卓」製作委員会
映画『明日の食卓』の1シーン。ワンオペ育児と仕事で余裕をなくす母親役について「他人事とは思えない場面があった」と菅野さん。(C)2021「明日の食卓」製作委員会

菅野 映画の冒頭、留美子がスーパーで思わず子どもを怒鳴ってしまい、近くにいた若い女性からとがめるような視線を向けられるシーンがあるんですけど、「ああ、母親はこういうまなざしに、追い詰められるよね」と、わが身に置き換えたりもして。

 この映画への出演のお話を最初にいただいたのは、新型コロナウイルス流行の前でした。その後、昨年4~5月の自粛期間を経験し、24時間子どもと顔を付き合わせて過ごすという、初めての経験をしました。

 映画では、1人の「ユウ」君が母親に殺されたという設定で、「母性に潜む狂気」も描かれています。以前の私だったらよく理解できなかったかもしれません。でも、自粛期間を通して、それまで見えてこなかった部分に向き合うことができたように思います