分子栄養学を学び、少食、たんぱく質不足などの悩みに対応

東京五輪を機に現役を引退してセカンドキャリアを築くと決めていた私は、20年にクライミングの普及を目的とした会社を立ち上げました。コロナ禍で東京五輪の開催が1年延期され、同時に数々の大会が中止になりました。そこで時間に余裕ができた分、トレーニングの合間に分子栄養学の勉強もしていました。栄養に関する知識は少なからずありましたが、突き詰めて学んだことはなく、選手時代は周りのスタッフに管理をお任せしていました。しかし、引退したら自分の身体の維持、栄養管理は自身でやらないといけない、と思い立ったからです。

そもそも私は幼いころから少食で、1食あたりの食材をきちんと選ばないとすぐに栄養不足になってしまいます。知識を得たことで、より効率よく栄養を摂るために工夫を重ねられるようになりました。買い物のときには原材料の表示などを見て、たんぱく質が多く含まれるモノを選択しています。夫の楢﨑の健康も、やはり気になりますね。彼自身も最近は一段と食生活についての意識が高くなったと思います。ずっと野菜を食べられなかったため、ビタミンやミネラルが不足しがちで、貧血になってしまったこともありました。そこで、私が野菜のコールドプレスジュース(低速回転のジューサーで野菜を絞る)を用意するようにしたら、ごくごくと飲めるようになりほっとしています。

より多くの人にクライミングを楽しんでほしい

私が起業したのは、もっとクライミングを多くの人に知ってもらい、楽しんでもらうための活動をするためです。アスリートだけのものではないということも伝えたく、今も各地でさまざまなイベントを行っています。

クライミングにはそれだけの魅力があります。健康でバランスのよい身体づくりにとてもよいと同時に考える力も培われるスポーツです。指先が刺激されることで脳も活性化するといわれ、設定された課題を攻略する段取りを次々と考えるため瞬時の判断力も身につきます。両手両足を使うので、身体の左右バランスが整う点でもお勧めで、実際にテニスやゴルフなどの選手が身体の調整のためにクライミングをしています。1人でもできますし、仲間と楽しむことも競い合うこともできますよね。

一生機能する身体を維持するためのエクササイズとしても、すでに多くのシーンに取り入れられ始めました。園児や小学生はもちろん、年齢が高い方も始められるのがクライミングの特徴でしょう。実は、はしごを登る程度の簡単な課題(クライミングのコース)もあります。高齢の方の施設ではホールドの突起部分をつかんで、登るのではなく横に移動するといった安全な課題を設置しているところもあります。動ける身体を維持するために、幅広い世代の方々に、楽しみながら親しんでほしいと思います。

もうひとつ、私が普及活動というセカンドキャリアを持つことで、これから育つアスリートたちの、引退後の生き方のロールモデルになることができると考えています。夫婦で長くクライミングに関わっていくことがとても楽しみで、そのためにも食事を中心に自分たちの健康管理をしっかり続けていこうと思っています。