小竹 すごく意外だったのは、食育基本法は国が制定しているので理想論かと思っていたら、実はその逆でいかに食育が人々に伝わるのかということがきちんと書かれていたりするんですよね。

米倉 当時の担当者としても、「食べる」という個人的な行為について、私たちが大上段から言う話ではなく、それぞれの方々の状況に合わせて進めていくものだと思っていました。しかし、様々な関係者と話をしていくと、「朝食を取るべき」「共食すべき」と方向性を強くお話される方や、「(子どもたちにしっかり)食べさせるように…」みたいな言い方をされる方もいて、強い想いや使命感を持たれている方も中にはいらっしゃるのかなと感じたことも正直ありました。

 個人的には、食育ってもっと広く気楽に捉えても大丈夫なのでは…と思っています。

食育は、楽しく生きる喜びを与えるもの

小竹 食育について本を読んだり、取り組もうと思ったりすると「分かってはいるけど、無理なんだ」と、時間や労力を考えて胸が苦しくなることってありますよね。

米倉 そうですね。第3次食育推進基本計画を作るときも、「じゃあ、食ってなんだろう、食育ってなんだろう」と改めて関係者で話をしたことがあります。すると、意外と共通項は「楽しく、おいしく食べる、そしてその結果、健康だったらなおいいよね」ということでした。それは、「食卓が楽しいこと」「食べるものがおいしいこと」「食べ続けていくことで人生を通じて健康でありたいということ」なのではないかなと改めて感じています。

 「健全な食生活を日々実践し、おいしく楽しく食べることは、人に生きる喜びや楽しみを与え、健康で心豊かな暮らしの実現に大きく寄与するものである」という一文を第3次食育推進基本計画の際に、あえて最初に加えた経緯はこんなところにもあったんです。

 食育って、しなくてはいけないものだと思いがちなのですが、「食」は、楽しみながらおいしく味わうものなのではないか…と改めてお伝えしたいですね。

―― 家族で食べる時間というのも、子どもも楽しめれば、手作りでなくてはいけないということはないのでしょうか?

米倉 忙しい平日に大変な思いをして疲れながら共に食事をする、というよりは、この日はみんなで食べようという感じで食卓を囲むことでいいのではないかと思うんです。

 特に、働いている人は、「夜は遅くなることもあるから、朝食はみんなで食べるようにしている」など、それぞれの生活にあわせて工夫をされています。ライフスタイルによって、一緒に過ごせる時間も変わってくると思うので、それは家庭ごとに決められればいいですよね。

小竹 私も以前は「~すべき」が強くて、違った方向に行っていた気がします。それなのに「忙しいから今日はファミレスに行くか!」と言うと、子どもはすごく喜んでいたりするんですよね。お母さんが台所にいないのに、楽しそう…。子どもにとっては、楽しみという視点でいうと、「共に食べられる」ということがすごくスペシャルなんだなと感じて、これでいいんだなと思えたんです。子どもたちとの食事というときに「楽しさ」を意識し、局所的に見てしまうのではなく俯瞰してみることも大事なんだと思いました。

米倉 そうですね、自分が食について、何に縛られているのかを改めて考えてみると、皆さん自身が少し楽に食と向き合えるかもしれませんね。