勝者の失敗、敗者の成功を知る楽しさも
―― 歴史を学ぶことの良さは何だと思いますか。
山崎 教科書に載っている内容は勝者の歴史ですが、実は勝者にも失敗があり、敗者にも良いところがあったと知れること、ですね。
井伊直弼は、安政の大獄――開国に反対する人たちを弾圧した事件の中心人物で、小学校の頃は悪人だと思っていました。でも、大人になってから深掘りしてみると、論理的で、民を大事にするなど、人として優れていたようです。それに、将軍家や江戸幕府を中心とした社会秩序を守りたいという信念の人で、その視点で見ると価値観や目指すものも「なるほど」と理解できました。
さきほどの日野富子もそうですが、一人の人物をいろいろな角度から見ることができる面白さ、楽しさを知ることができるのが、歴史を学ぶ良さだと思います。実生活でも、学校や仕事を通して出会う人たちのことを「こういうところもあるけど、ここは良いよね」と、角度を変えて見ることは人間関係を築く上でも大事だと思います。
―― 著書『歴史のじかん』では、山崎さんの書き下ろしコラムも掲載されています。コラムの視点もいろいろなアングルから歴史上の人物を考察していて多面的ですよね。ふだんから意識して、多面的に物事を見るようにしているのでしょうか。
山崎 私は小学生のときは気が強くて、誰とも交わらない、干渉しない、敵にも味方にもならないというポジションでした。でも、今となってみれば、それは当時自分が人を信用していなくて、もっと言えば「あなたってこんな人でしょ」と、人からイメージを持たれるのが嫌だったんです。
今は、当時の反省をしながらも、人を決めつける大人になりたくないと思っているので、歴史上の人物に限らず、リアルな世界でもさまざまな角度から物事を見ようと努めています。
だから、どんなに輝いている人でもその人なりの悩みを抱えていると思うし、どんなにつらそうな人でも、その人が輝ける場所はきっとあると思います。
取材・文/海老根祐子 写真/稲垣純也