子どもたちが憧れ、ときに恐れながら教えを請うてきた教師という仕事は、今や「過酷な職業」という位置にあります。そのことで、子どもたちにどのような影響が及ぼされるのでしょうか。また、学校の先生の働き方改革は、どうなっているのでしょうか。子どもたちが持続的に、より良い教育を受けるために保護者が知っておくべきこと、できることについて、5人のパパで、学校業務改善アドバイザーや中央教育審議会委員を務めた妹尾昌俊さんに聞きました。

 2021年3月、文部科学省が始めた「#教師のバトン」プロジェクトが話題になりました。文科省は、「所属長からの許諾は不要」として、現役教員たちにSNSでの発信を呼びかけました。SNSでの発信を通して教師の魅力を広く伝え、教師を志す人を増やしていきたいという趣旨によるものです。ところが実際にスタートしてみると、教師からは労働の過酷さや、肉体的にも精神的にも追い詰められている現状を訴える悲痛な声が殺到。炎上状態となり、当初の意図とは逆の意味で教育現場の労働環境が注目されることになったのです。

「#教師のバトン」であぶりだされた、教育現場の実情

 「残業が多すぎてプライベートがない」「土日出勤が当たり前」「育休が取れない」……。教師たちのそうした叫びが現実のものであることを、「まずは知ってほしい」と妹尾さんは言います。

 「2016年に文部科学省が実施した教員勤務実態調査では、日本の小学校教員の3割、中学校教員の6割が月80時間以上の過労死ラインを超えて働いています。しかも、この数字に学校外、つまり自宅に残務を持ち帰って仕事をしている時間は含まれません。自宅残業を含めれば、数字はさらに跳ね上がるでしょう。日本の教師たちは、異常な労働環境のなかにいるのです

子どもたちの学力は、教師の努力によって支えられている

 長時間労働に加えて過密労働も教師を苦しめています。小学校では、学習指導要領の改訂で授業時間と学習内容が増加。授業準備を含めて負担が増えるなか、テストの丸付け、学校内で割り振られる校務分担、学校行事などをこなさなければならず、1日の休憩時間は平均で6分ほどといわれています。中学校教員の1日の休憩時間は平均8分ですが、放課後や土日の部活指導の比重が大きく、長時間かつ過密な労働を強いられていることには変わりがありません。

 妹尾さんは、OECD(経済協力開発機構)のPISA(生徒の学習到達度調査)で、日本が数学と科学でトップクラスにいることの背景には、各家庭の努力や塾の影響もさることながら、各教育機関の頑張りもあると指摘します。

 「教師たちは、自分の時間を削って授業準備やコメント書きなどをし、子どもたちの成績を支えています。しかし、そうした教師たちの働き方が世界的に見ても非常に劣悪であることは顧みられていません。限られた時間でこなすべきタスクが多すぎて、十分な授業準備が行えないこと、インプットの時間が取れないことへのジレンマを抱えている教師は非常に多い。ハードワークで体調を崩す教師は少なくなく、代わりの講師も見つからず欠員状態のまま。残された教員全体にしわ寄せが行って、現場の負担が増えることもままあります。学力のキープはもちろん重要ですが、学力をキープできる環境を維持するためには教師たちの働き方を見直す必要があることを、ぜひ知ってほしいと思います」