自社で起きているセクハラに不快感を持つのは女性だけではない

 かつての取材先で、女性活躍推進に必要なことを検討するため、従業員向けのアンケートを行いました。回答結果を見せられ、助言を求められた私が、忘れられないことがあります。

 それは、回答の中で複数の男性が、その企業で起きたセクハラについて怒ったり、不快感を表明したりしていることでした。

 ある男性は、過去に起きた上司による部下へのセクハラに際し、会社側の対応が不十分で被害者が退職したことに憤っていました。また、別の男性は社内の上級管理職が性的な発言を頻繁にすることを不快に思っていたうえ、比較的キャリアの長い女性が、そうした発言を「うまく受け流す」ことを問題視していました。周囲が笑って見逃すことで、セクハラ発言が受け入れられ、促進されてしまう、という批判が記されていたのです。

 これを見て、他社の状況とはいえ、私は自分の行動を深く反省しました。当時は働き始めて10数年、男女共に夜遅くまで働き、ときにお酒が入った場で交わされるやり取りを「あの人はいつも、こういうことを言ってしょうがないな」と笑って受け流す。多少おかしな発言でも目くじら立てないことで、男性が多い職場で仲間に入れてもらえる感覚を得られるのです。

 自分がしてきたことは、常識的な感覚を持つ男性に不快感を与えていた、ということ。そして、男性は女性以上にセクハラを「見たくない」と言いにくいことを、その時、よく理解しました。

 セクハラに怒るのは、女性だけではありません。心ある男性は、不快に思いつつも、性別が男性であるというだけで加害者と一緒にされるような苛立ちを覚えていることがあります。

 今回、“財務次官問題”の第一報を週刊新潮で見たとき、実を言うと、私は「またか」と思いました。そして、最初はスルーしようとしたのです。

 そんな折、あるテレビ局の男性社員が連絡をくれました。この人は「これが見逃されたら、地位が高ければ何をしてもいいことになってしまう」と危機感を抱き「治部さん、ちゃんと発信して下さい」と言いました。この人は「どうしたら、セクハラはNGである、という社会的合意を作ることができるか」、男性にも伝わるように表現する方法を、一生懸命考えていました。また、私のかつての先輩の中には、私が性暴力に関する記事を書くと「大事なテーマだと思います」とメールをくれる人もいます。私が書いた、子どもの性虐待に関する記事を読んで「男性の自分は何ができるか」と質問してくれた人もいました。

 こういう男性たちは、組織の中で自分の意見をどのように表明しているか分かりません。ただ、一つ言えるのは、セクハラを受け流すことを暗黙のうちに強要する組織は、良心的な男性のモチベーションを削いでいるということ。それを、経営者にはよく認識してほしい、ということです。

 今、必要なのはセクハラ被害者に勇気を出させ、名乗りを上げさせることではないはずです。勇気を出すべきなのは、メディア企業の経営者や管理職ではないでしょうか。おかしいことは「おかしい」と明言し、大切な資産である従業員を不当な圧力から守ることは、経営者や管理職が優先すべき仕事ではないでしょうか。

【この記事の関連URL】

日本新聞労働組合連合の声明
 http://www.shinbunroren.or.jp/seimei/180422-2.html
 http://www.shinbunroren.or.jp/seimei/180418.html

日本民間放送労働組合連合会の声明
 http://www.minpororen.jp/?p=798

厚生労働省 「事業主の皆さん 職場のセクシュアルハラスメント対策はあなたの義務です!!」
 http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/00.pdf

参考になる関連報道
 https://www.businessinsider.jp/post-165969
 https://www.japantimes.co.jp/news/2018/04/22/national/social-issues/sexual-harassment-scandal-highlights-a-larger-problem-in-japans-media/#.Wt2nNIjFLSF

(イメージ写真/iStock)