マギーズセンターは漠然とした「モヤモヤ」を受け止める場所

西口 マギーズセンターは、がん患者の心の痛みに向き合っていくというスタンスですよね。

秋山 そうですね。とにかく日本では「相談支援」というものにお金がつかないので、病院でも隅っこに机とイスがちょこんと置いてあるだけ。専用の相談室があったとしても、予約しなくちゃいけなかったり、何について聞くか決まっていないと予約も取れなかったり。でもがん患者は混乱して、どうしたらいいか、何から始めたらいいのか分からないような状態なんです。それではあまりに不親切ではないかと。

西口 気軽に相談に行ける雰囲気ではないですよね。

秋山 気持ちがフワフワして仕事が手につかなかったり、眠りが浅かったり、今すぐどうこうではなくても、すごく不安な気持ちになることがあると思うんです。そういう、何がどうとははっきり言えないけれど、心がモヤモヤした状態でも気軽に相談に行ける、そういう場所が必要だと思ったんです。漠然とした不安や心配をそのまま吐露してもらって、「このことはちゃんと医師に聞いたほうがいいかもしれません」などと話しているうちに、少しずつご自分の心の中も整理がついて、力を取り戻していく。マギーズセンターは、そんな過程を支援する場所ですね。

西口 モヤモヤした気持ち、僕もメチャクチャありますね。例えば、病院の化学療法室で抗がん剤治療を受けるんですが、看護師さんと話す時間が結構あるんです。で、何を言ってもいいよと言われるんですが、そう言われれば言われるほど、何を話していいかわからない。

秋山 なかなか気まずいですよね。

西口 仕事の話をしても分からないだろうなとか、勝手に考えちゃうんですね。「子どもが最近反抗期で」なんて話は病気とは関係ないし、とか。そうなると、時間が過ぎるのを待つみたいになっちゃって(苦笑)。モヤモヤはあるんですけど、それを話す相手は医療者や病院じゃないなと。

秋山 でも、家庭でもないでしょう?

西口 そうなんです。家庭でそういう話をしても、「妻もきっと、同じようなモヤモヤを抱えているんだろうな」と思うと、結局自分の中で解決しようとなってしまう。「がん患者はみんな同じような気持ちを抱いているだろうし、自分だけが特別なわけじゃない。自分の中でこういう気持ちと向き合っていくしかない」と結論づけてしまうんです。「こんなことは、大した問題じゃない」と自分の中で思い込もうとする。男性は特に、そういうふうに考える傾向が強いかもしれないですね。

秋山 でも、モヤモヤはなくなりませんよね。

西口 話したところで解決にならないこともありますしね。例えば、子どもに病気のことを伝えるときに、最初は妻に話をしていたんですが、結局「これが最善だ」という答えはないわけです。だから、そういう答えのない話をどこでしたらいいのかということは、すごく難しい問題ですね。

秋山 お子さんには、西口さんが伝えたんですか?

西口 僕はチキンなので(苦笑)、結局妻が伝えました。実は、僕が今キャンサーペアレンツの活動をしている原点というのは、そこだったんですよ。子どもに自分の病気のことをどう伝えていいか分からない。「みんなはどうしているんだろう? 聞きたい、参考にしたい」ということがスタートだったんです。