「エジソンだってスティーブ・ジョブズだって、最初はバカなやつだと笑われたはず」(東京大学の生田幸士教授)。世界を変えてきたのは、そんな「バカ」たち、いや「天才」たちだった――。

 他のことが目に入らないぐらい何かに夢中になれる人、常識とは違う判断や結論を持ってチャレンジする人を、日経DUALではポジティブな意味で「バカ」と定義しました。没頭する力や独創性、想像力、常識を覆す行動力こそが未来を生きる子どもに必要な「力」ではないのか。子どもの「バカ」を育てるために、今親ができることはあるのか、様々な角度から探っていきます。

 第2回目の今回は、「男女の違い」と「バカ」の関係を考えます。DUALの定義する「バカ」は男性のほうが多い印象がありますが、そこに男女の差はあるのでしょうか。人類学者の長谷川眞理子さんに進化心理学や人間行動生態学の視点から迫ってもらいました。後半ページでは、1回目に引き続き、東大で「バカゼミ」を主宰する生田幸士さんに、「最近の東大女性の見事な『バカ』っぷり」について教えてもらいます。

【想像力で現代を生き抜く 子どもの「バカ」の育て方特集】
(1)社会を変えた天才は、みんな「バカ」だった
(2)長谷川眞理子 「バカ」は男が多くて女は少ない理由 ←今回はココ
(3)子どもの「バカ」を育てるための5つのポイント
(4)福原志保 「壊れた洗濯機」と言われた少女時代
(5)僕が「そろばんオタク」で終わらなかったワケ
(6)カリスマ先生 「失敗目的」の経験が子どもを伸ばす
(7)成田緑夢 自分との「誓約書」で東京五輪を目指す

男性は“ワンモード”、女性は“マルチモード”が多い

長谷川眞理子さん(国立大学法人総合研究大学院大学学長)
長谷川眞理子さん(国立大学法人総合研究大学院大学学長)

 周囲を気にせず何かに熱中して新発想を生み出す「バカ」は男性のほうが多い印象がありますが、生物学的に男女の性差はあるのでしょうか。「男性はワンモードで、集中するほうに流れる人が多くて、女性はマルチモードで、全体が分かっているほうに流れる人が多い。『バカ』は男の人に多い印象がある、というのは、一般的に見るとその通りだと思います」。人類学者で、人間行動生態学や進化心理学を専門とする長谷川眞理子さん(国立大学法人総合研究大学院大学学長)はそう語ります。

 「もちろん、0か1ではないし、当てはまらない人もいて、個別にみると違う人もいます。ただ、平均的にみると、男女の生物学的性差は少しある、といえます。進化の歴史の積み重ねでそうなっています」

 もう少し詳しく教えてもらいましょう。

 「例えば、こんな実験結果があります。コンピューターで問題を解いてもらっている間に、別のところで物音を立てて、後で『途中で何か気づきましたか』と聞くと、男性は気づかない人が多くて、女性は気づいた人が多い。また、右手と左手を同時に別の袋に入れてもらって、それぞれ中に入っているものの形を触って当ててもらう実験では、男性は片側しか分からない人が多いけど、女性は『右は三角、左は丸』などと両方分かる人が多い。つまり、男性は、同時多発的な感覚を処理しにくい。一方、女性はマルチモードに感覚が広がっている、といえます」

 「感覚の入り方がワンモードだと、全体は分からない代わりに、見ているところはすごく深く見られる。一方、マルチモードだと、全体の把握はうまいけど、深く見るほうが犠牲になる、みたいなことはあり得るわけです

<次のページからの内容>
・男女の脳に違いはあるのか
・ホモ・サピエンス20万年の歴史が作った脳の変化
・「やりたい」「やりたくない」の性差
・戦闘機パイロットに女性が少ない理由
・「女性は東大で教授に絶対なれないから早く出て行け」
・最近の東大女性の見事なバカっぷり