2020年から小学校で「プログラミング教育」の必修化が始まり、本格的に子どもたちがタブレットやパソコンを使って学ぶようになったり、プログラミング学習をしたりする機会が増えてきました。そこで、脳科学者として数多くの著書を持つ中野信子さんに、子どもたちがプログラミング教育を受けることによってどんな力が身に付くのか? 将来的にどんな可能性が広がるのか? また、子どもの学ぶ意欲や創造力がグングン高まるプログラミング教材についてもお話いただきました。

よりよい結果を導き出す「論理的思考力」が育つ

――2020年より小学校でプログラミング教育が必修化されました。子どもの頃からプログラミング教育を受けることによってどんな能力が身に付くでしょうか?

中野信子さん(以下、敬称略) プログラミング学習の基本である「アルゴリズム(問題解決のための手順や計算方法)」を理解することによって、物事を順序立てて考えたり、処理していったりする「論理的思考力」が養われていきます

 論理的思考力というのは言い換えると、生きていく上でよりよい結果を導き出すための道筋や戦略を考えられるということでもあります。

 私が子どもの頃はコンピューターに触れたり、プログラミングを学んだりする機会はほぼありませんでした。でも、当時流行っていたアーケードゲームに夢中になっていた同世代の子たちの一部は、ゲームの基板を自ら手に入れ、どういうシステムでこのゲームが作られているのかを熱心に研究して、ゲームをハックしていたんですね。

 そういう子たちの中には将来的に、ゲーム業界で名前の挙がるような一流のクリエイターへと成長していった人もいました。

 業界の中で抜きん出た存在になれたのは、子どもの頃からコンピューターやプログラミングに慣れ親しんでいたり、ゲームの仕組みを内部から理解していこうとする中で、「こうすればこうなる」「こういう道筋で行けば望む結果が得られる」という論理的思考力が自然と培われていたから。それを自身の仕事や人生に活かすことによって、成功につながっていったのだと感じます。

――自分の仕事や人生においてよりよい結果を生み出すために、論理的思考力がとても重要になってくるんですね。

中野 そうですね。論理的思考力は、人とのコミュニケーションをより円滑にしてくれるものでもあります。どういう順番で話すと相手に伝わるのか? 相手の感情や心を動かすことができるのか? 日常の様々な対話のシーンで活用することができます。

 例えば、寝坊してお母さんに怒られた時にどういう順番で伝えると、機嫌を直してもらえるのか?

 「まずは謝ってお母さんをなだめる」→「次は夜更かししないで早く寝ることを伝える」→「(もしそれでもお母さんの機嫌が直らない時は)お母さんも寝坊した時あるよね? と突っ込む」。

 子ども目線のかわいらしい例えになりましたが(笑)、自分の思いや考えを相手に理解してもらいやすいように順序立てて伝えたり、幾通りもの対話のパターンを考えられたりするのは、論理的思考力のなせる技です。

 プログラミング学習を通して、子どもの頃から論理的思考力を身に付けることは人間関係が円滑に行きやすくなると同時に、将来仕事で提案や交渉をする時などに大いに役立ってくれるでしょう。