過半数以上の手が上がったのは(3)だった。「ロボットの言ったことを、生身の先生が詳しく説明する今日みたいな授業のほうが効率がいいと思います」という声も出た。

 NAOは幸阪先生と掛け合いしたり、音楽を流したりして所々で授業に絡み、先生のスムーズな話術に、自然に溶け込む形で進められた。

 こんな鋭い感想も出た。

「慶應大学の人が、NAOの感情を動かしているんでしょ?」
「授業は全部、NAOのプログラミングしている人と、幸阪先生の計画のうちなんじゃない?」

 「『〇〇くんが授業中にこういう発言する』とNAOは予言していたみたいだった。なんで分かったの?」という疑問も飛び出した。例えば、NAOは、「野球に詳しい」「アメリカに住んでいた」など子どもの特性も踏まえた上で発言をした。この日の授業では、子どもたちに明確に示されなかったが、タネを明かせば、幸阪先生とNAOのやり取りはすべて事前にプログラミングされている。伊勢校長によると、通常の授業でも、子どもの特性を把握して流れを想定し、授業が進められているというが、その手法にのっとって、AIロボット授業でも子どもの発言を想定してシナリオを作り、プログラミングしているという。

普通の教員でもできるということをもっと広く伝えたい

 「AIロボットによる振り子の実験授業はうちのオリジナルです。私自身、専門は理科で、これならできそうかなと考えました。去年の初めての導入時は、私自身が先生役をしましたが、45分の枠を20分で終えてしまった。その反省なども踏まえて、今年改めてチャレンジしたのが、今日の授業です」と伊勢校長は話す。

 昨年は、まず伊勢校長自らが先生役を務めるために、慶應義塾大学の日吉キャンパスに足を運び、授業ワークフローを書けば、ロボットに発話や動作をさせるプログラムを自動的に生成するツール「PRINTEPS」を学んだ。

 「AIスピーカーが家にある、という家庭もありますので、慣れている生徒もいますが、AIロボットがどういう存在かを知ることがまず大切です」と伊勢校長は強調する。「知らないと、不安や恐れにつながります

 「例えば、今日の授業でも、音声認識がうまくいかなくて、人間がAIロボットに合わせて言い方を工夫するなどの必要がありました。AIロボットにもできること、できないことがある。つまり、AIロボットを妄信しない、ということも生徒たちは学べました。AIロボット授業で深く関わったからこそ、それを知ることができたと思います」

 今回の授業は、授業ワークフローツール「PRINTEPS」を使ってプログラミングした。「パターン化されたものを組み合わせるだけなので、専門家じゃなくても、普通の教員でもできます。その点をもっと広く伝えたいです」と伊勢校長は言う。

 事前準備はかなり手間ひまがかかるが、山口研究室の院生が研究の一つとして協力してくれているという。

AIが「できること」「できないこと」を実感するのが重要

 山口研究室では2015年から私立や公立の小学校にAIロボット授業を導入する協力をしている。「既に4年経過しましたが、教師が自分で使えるようになったのは、今回が初めてです」(慶應義塾大学理工学部管理工学科教授の山口高平さん)

 「未来社会において、人の仕事や日常生活にAIソフトウエア、AIロボットが関わってくるのは確実な状況です。そのような未来社会に備えた勉強とは? とよく聞かれますが、まずは、AIに慣れて、AIが『できること』『できないこと』を実感することが重要であり、AIロボット授業の価値もそこにあると考えています」(同)