これまでの人生で、今が一番楽しい

ヨッシー するとこのタイミングで、知り合いから大きな飲食店を紹介してもらったんです。「チップで稼いでいいよ」と。ここで最初に言ったテーブルホッピングというお客様のテーブルを回るスタイルで、チップで稼ぐことができました。

 このおかげで、出演依頼がない日はチップで稼ぐことができるようになりました。ある程度の収入が見込めて、しかもテーブルホッピングは自分のプロモーション活動にもなったんです。お店で知り合ったお客様が、後日会社の宴会の余興として呼んでくださったり、結婚式の催しで呼んでくださったりしました。

 とにかくこれで収入をある程度安定させることができて、なんとかプロとして今も活動できています。

―― ズバリ聞きたいのですが、会社員時代と、今のフリーランスとしてのマジシャン業、どちらのほうが収入は上ですか?

ヨッシー 正直なところ、会社員時代より今のほうが稼げています。これは本当に多くの方々の助けがあってのことで、心から感謝しています。でも、よかったのはお金だけじゃないんです。一番うれしいのは、昨年生まれた子どもと一緒にいる時間がたくさんあることです。

 マジシャンの仕事は、昼間動くことはあまりありません。時々、マジック教室とか、保育園や介護施設での公演などはありますが、仕事のほとんどは夜。なので、ほとんどの日は朝から夕方まで家にいられるんです。夜の仕事も大体19時から24時くらいで、終電で帰ることが多いです。

 だから、基本的には朝から夕方までずっと、子どもと育児休業中の妻と一緒に過ごしています。娘がもうかわいくて、かわいくて。ずっと一緒に遊んでいます。

 この前家族で外食に行ったときのことです。これまでは抱っこしてあやしたり、ママのおっぱいを飲まないと眠れなかったのに、食事中に娘が僕の腕の中でいつのまにか眠ってしまって。もうね、かわいくてしょうがないですよ。

―― デレデレですね(笑)。ちなみに家事・育児の分担はどうされているのですか?

ヨッシー 料理、洗濯といった家事は、基本的には妻がやってくれています。僕がしているのは、子どもをお風呂にいれたり、オムツを替えたり、ゴミ出しするくらいで。でも、妻が家事をしている時間は、ずっと僕が子どもを見ていますよ。

 会社員時代だったら、こんなに家族に関われなかったです。今は時間の自由がきくのが何よりもいいですね。

―― 独立という大きな決断をして1年と数カ月が経つわけですが、今振り返って、その決断は間違っていなかったと思いますか?

ヨッシー そうですね。独立して、よかったことしかないですね。家族との時間が取れて、お金が稼げて、何より僕は仕事が楽しい。これまでの人生で、今が一番楽しいです。最高の人生だと思っています。


 安定した会社勤めを辞め、身重の妻を抱えての独立という決断は、ヨッシーさんにとって軽いものではなかったと思います。でも、「マジシャンになりたい!」という夢をずっと心の中で温め続けて、最後のタイミングでチャレンジすることを決めたヨッシーさんは、周囲の助けにも恵まれて、プロとして活躍できるようになりました。

 同好会を設立したり、憧れのマジシャンに手紙を渡したり、入社面接でマジックを披露したり、奥さんに決意を伝えたり。その行動のすべてが、今の幸せにつながったのでしょう。諦めない力は偉大ですね。

 しかし、小学生のときにたまたま見た素人マジックが、その後の人生を変えたとは驚きです。DUAL読者のお子さんも、ちょっとした経験が将来を決定づけることになるかもしれません。

 第2回、第3回では、いよいよ簡単マジックの初歩と、場の盛り上げ方を教えてもらいます。

(取材・文/北野啓太郎、日経DUAL編集部 撮影/関口達朗)

ヨッシー(吉野弘坪)

1985年生まれ。秋田県出身。東京都練馬区在住。
小学生のころ、トランプマンやMr.マリックに憧れ、マジックを始める。高校・大学とマジックの同好会を立ち上げ、秋田県内の保育園・介護施設を中心に公演を重ねる。大学卒業後、上京し会社員として働きながら、マジックの活動を継続。2016年に会社を退職し、独立。出張マジックをメーンに活動を続けている。
HPhttp://magician1216.wixsite.com/yossie