アニメの世界では、3歳の男の子も5歳の幼稚園児も一人で公園や友達の家に遊びに行って、街をうろうろしていますね。でも、現実の世界でわが子を一人で外を歩かせる勇気はありますか? たびたび繰り返される子どもを狙った犯罪。そんなニュースに接すれば接するほど、子どもの一人歩きに怖さを感じている人は多いのではないでしょうか。
 保育園時代なら園の送り迎えも公園遊びも親がぴったり寄り添うことができますが、小学生になればそうはいきません。登校や学童からの帰りも最初は親が付き添うかもしれませんが、いずれは一人になるときが出て来ます。となると、親がやるべきなのは、ぴったり張り付いて守ってあげることではなく、「自分で自分を守る力」を育ててあげることなのかもしれません。
 そこで、編集部は子どもの防犯力を育てる「体験型安全教育」の研究者で、講習会やテレビ監修等で活躍しているステップ総合研究所の清永奈穂さんの安全教室にお邪魔してきました。小学校で行われた安全教室には、親子で練習できるメソッドがたくさんありました。ぜひ、ご家庭でも取り入れてみてください。

防犯訓練にはランドセルを背負って参加

 3学期が始まって間もない土曜日の午後、杉並区立天沼小学校の体育館に集まったのは1年生の親子たちです。今日は恒例のPTA主催の安全教室。清永奈穂さんを招いて、身を守るすべを学びます。

1年生が体育館に集まった。ランドセル姿なのは、できるだけ登下校と同じ格好で練習をするため
1年生が体育館に集まった。ランドセル姿なのは、できるだけ登下校と同じ格好で練習をするため

自分を守る力=安全基礎体力

 各地の小学校や幼稚園、保育園などに招かれて安全教室を開いている清永さんが目標としているのは、子どもたちの「安全基礎体力」を育てることです。安全基礎体力とは、「体力」「危機への知識・知恵」「コミュニケーション力」「大人力」の4つの総合力のこと。「大人力」とは、判断し、決定し、責任を取る力。「コミュニケーション力」とは危機に対応できる言葉を持っていることや危機を周囲に伝える力のことです。

 「年齢に応じた『安全基礎体力』を身に付けることで、子どもはいざというときに自分で自分の身を守ることができます。幼児や低学年のうちは自分の身を守るだけで精いっぱいかもしれませんが、徐々に友達を助けたり、地域の人を助けられるようになっていきます」

 「安全基礎体力」を育むうえで、大切なのが、普段から親子でたくさん話をすることだと清永さんは言います。「親子でその日の出来事を話すことで、いつもと違う妙なことや、不審者の情報がいち早く分かり、子どもや地域の安全につながります。また、『寄り道をしない』『家に何時までに帰る』などの大事な約束を必ず守る習慣をつけることも、子どもを守ることになるでしょう

子どもにどんな人に気を付けるべきか、特徴を説明する清永さん。覚えやすい標語が次々に飛び出す
子どもにどんな人に気を付けるべきか、特徴を説明する清永さん。覚えやすい標語が次々に飛び出す

車は密室。声をかけられても絶対乗らないこと

 清永さんは子どもたちに呼びかけました。「みんなのことをどこかに連れて行こうという人は、どんな子どもが好きだと思う?」

 「弱そうな子」「かわいい子」と思い思いの声が挙がります。

 「そうだね。ボーっと歩いている子、一人で歩いている子、イヤだと言えなさそうな子も狙われます。だからみんなは、前をよく見て、時々キョロキョロして横にも注意して歩いてください。そして、一人でいると狙われやすいので、一人になったら、しっかり前や周りを見て歩くことができるようになろうね」と清永さんは話します。

 「お父さんが病気になったよ。病院に連れていくから車に乗って!」

 「こう言われたらどうする?」と清永さんは問いかけました。一人の男の子が答えます。「いやだ!」。別の子は「行きません!」。

 二人のきっぱりした答えに、清永さんは「いい答えですね。拍手!」と絶賛します。「相手と色々お話しせず、きっぱり短く『いきません』と断れればいいんだよ。そして『車に乗って』と言われたら気を付けてください。なぜだか分かる? 車はカギがかかるでしょう。部屋に閉じ込められるのと同じなんです。だから、おうちの人と約束していないのに『お迎えに来たよ、車に乗って』と言われても絶対に乗ってはいけません

清永奈穂さん。犯罪の現場にもたびたび足を運び、防犯の研究を重ねている。防犯教室のほか、テレビの防犯番組の監修も行っている
清永奈穂さん。犯罪の現場にもたびたび足を運び、防犯の研究を重ねている。防犯教室のほか、テレビの防犯番組の監修も行っている