保育業界の非効率さに驚いた新人時代

 僕は学生時代、30種類以上のアルバイトをしました。段ボールを組み立てる作業から、販売職まで、いろいろな業種を経験して、保育業界に飛び込んだのですが、そのときにびっくりしたのが「いまどき、こんな非効率な職場があるのか」ということです。

 例えば「壁面構成」。お子さんの保育室の壁にも、色紙などで作ったかわいい動物や季節の装飾がされていませんか? あれは、ほとんどの場合、保育士が手作りしたものです。「季節感を感じられるから」「部屋が明るくなりかわいいから」と言われ、続けられているものなのですが、僕は手作りする必要があるのだろうかとずっと疑問に思っていました。

 でも、保育士という人たちは、福祉の世界に入ろうというだけあって、犠牲的精神が強いんです。「子どものため」という大義があるから、壁面構成を作るために休憩時間を削ったり、書類仕事を家に持ち帰ることになっても頑張ってしまいます。その気持ちはとても立派なことではあるけれど、自分の首を絞めているのではと思うのです。「壁面構成」をやるにしても、例えば、ネット上のフリー素材などをプリントアウトして使っても、季節感や部屋が明るくなるという効果は同じはずです。そうやって効率化すれば、休憩が取れるし、空いた時間に書類作成ができて、持ち帰り仕事がなくなります。

仲間と共に業務改善にチャレンジ。壁面構成を変えてみた

 実際、以前いた園では、保育士皆で効率的な働き方に取り組み、壁面構成をやめたことがあります。それで休憩は取れるようにはなったけれど、失敗したこともありました。やはり、壁が殺風景になったのです。そこで、自分たちの負担を増やさずに何とかできないかと考えて、色画用紙などで壁に大きな木を作りました。そこに、子どもたちの作品を飾ることにしたのです。

 年度の初めに木を作るだけでよいので、年間単位で考えると保育士の負担がとても減りました。連絡ノートを書く時間が確保できるし、休憩も取れるし、持ち帰り仕事も減る。年休も取れるようになる。しかも、子どもたちは毎月作品に取り組むので、頻繁に新しいものに更新でき、保護者にも好評でした。

 この例は、具体的に行動に移すことで効果を実感できましたが、これが全ての園に広まっているわけではありません。今の保育業界は「こうしたらいいんじゃないか」という段階で止まっています。「壁面構成をやらないなんて理解できない。普通はやるでしょう」と言われることもまだあるのです。

 でも、壁面構成をやめても保護者からクレームは出ませんでした。ママ・パパがうれしい顔をするのは、わが子が笑顔で自分に抱きついてくれるときです。言葉は話せないとしても、わが子が充実した一日を過ごせたと実感できることが一番。壁面にしても、わが子の作品があることで、そこから成長を感じることができるのではないでしょうか。

やり方を変える、工夫をするを通して保育士のスキルが上がった

 僕たちの仕事は、子どもたちと丁寧に関わり、一人一人の発達を促してあげること。保育士はそれぞれ、こんな保育をしたいという理想を持っています。しかし、時間や気持ち、体力的な余裕がなければ、理想の保育は実践できません。一般企業では「働き方改革」が進んでいますが、保育業界でも働き方は大きな課題です。

 以前、連絡ノートをスマホで書けるシステムを導入したら、かえって、長く書いてしまい、時間がかかるようになったという本末転倒なこともありました。そのときは、「5行までに収める」というふうに書く量のルールを決めました。すると、今までダラダラと書いていたことを要約しなければならなくなります。大事なことを抽出するようになります。結果として、保育士のスキルが上がるという良い結果が生まれました

 共働きが過半数を占めるようになり、保育園で育つ子どもはどんどん増えている。保育士の果たす役割はますます重要になります。ママ・パパが一層安心して子どもを預けられるように、保育業界の「働き方改革」を進めていきたいと思います。(談)