ESG経営に「子ども」という視点はまだ少ない。しかし、子どもこそ、次の社会や環境、経済をつくる主役であり、私たちの未来そのものである。キッズデザインに取り組む企業の多様な取り組みが、社会と市場に大きなインパクトを与える。

安全・安心な社会基盤づくりを通じて、全ステークホルダーに持続性をもたらす

 災害時の仮設トイレには水の確保や汚物処理、衛生面やプライバシー保護など設置側、利用側双方に課題がある。

 LIXILの「レジリエンストイレ」は、災害時に避難所となる学校に設置するパブリック向け水洗トイレである。平常時は洗浄水量5Lの一般のトイレとして使用、災害時は簡単に1L洗浄に切り替えられる。断水時でも1Lであれば、子どもでも運ぶことができる。プールなどから水を調達し発災後もすぐにトイレを使えるようになる。

 子どもたちでも自分で使用後の後始末ができ、かつ、災害時でも衛生環境を守れるという提案だ。このトイレを活用し、教育委員会と連携して地域の小学校で防災教育プログラムを実施している。地域の衛生環境を守りながら、子どもの防災意識の高まり、さらにはボランティアとして活動できる人材育成にもつなげる社会性の高い取組である。

未来の主役である子どもたちの可能性を拓くためのサポートをする

 富士通/富士通デザインの「Ontenna(オンテナ)」は、髪の毛や耳たぶ、えり元やそで口などに付け、音源の鳴動パターンを振動と光の強さにリアルタイムに変換して、音のリズムやパターン、大きさをからだで感じるコミュニケーション・デバイスである。ろう者との協働で8年もの歳月をかけたユーザー調査結果を存分に反映させ、子どもたちが使いやすいように考えられた。

 例えば、発話・発音や音楽を感じたり、太鼓やリコーダーなどの音の強弱をつける練習に活用できるなど、教育現場の指導支援にも役立つ。現在では、希望するろう学校に無償提供も行っており、音楽や言葉のリズムを楽しんでいる様子も見られるという。ろう者と健聴者が共に楽しむ体験を作り出すとともに、新たな五感経験の拡張にも資する未来の提案だ。

ワークライフバランスのデザイン~働くと子育ての両立から融合へ

 積水ハウスは「イクメン休業」として、男性社員に対し1か月以上の育児休業完全取得を宣言し、2018年から運用を開始した。

 家族で育休の時期や役割を話し合うシートづくりや取得計画書の作成・上司との相談を実施、育休取得までの時間を利用して、自らの働き方や時間の使い方を見つめ直す。育休経験によって上司・同僚や顧客に対しても好影響があるという調査結果も出た。制度を越えて、人材育成やスキルの向上につながった。

 凸版印刷の「はぐくみプログラム」は、育休中の社員が親子でアート制作を体験する「はぐくみアートサロン」、組織全体で両立を学ぶ「はぐくみセミナー」、社員同士が悩みやスキルを共有し支えあう「はぐくみサークル」からなる。

 育休中の社員やその上司、検討中の社員など幅広い層の参画を促し、組織全体で情報の共有を図る。休業や復職をためらわせる心理的不安を軽減する組織全体の仕組みづくりに独創性があり、制度的、経済的な対応に偏りがちな支援から一歩進んだ、社員目線での制度設計はまさに職・育融合と言える。

広がる「子ども視点」の製品開発・企業活動

 YKKの「QuickFree(R)」は、広い挿入口で子どもも大人も装着しやすい衣類用線ファスナー。一定の荷重で噛み合わせが解かれるため、万が一のフードのひっかかり事故時も重篤化軽減が期待できる。

 マツダは、「MAZDA TECHNOLOGY FOR KIDS」として、子どもたちの視点から安全・安心を考え、ドライバーの認知・判断・操作をサポートする自動車技術の開発、導入を進めている。加えて、子どもを抱きかかえての乗降性に配慮したドア開度の変更など『運転する母親と同乗する子供の配慮』という新たなテーマにも取り組んでいる。

 西武鉄道/川崎重工業の「西武鉄道通勤車両40000系」は、ベビーカーを置ける空間構成や子どもでも景色が見える窓、車内空気環境の向上など、子育てと移動の質向上に向けてデザインを進化させた。

 SCSKの「CAMP(キャンプ)」は、創作体験や共同作業、作品の発表を通じて、「共に創る力」を育む活動だ。プログラム、実施回数とも高い実績を有する。

 森ビルの「MIRAI SUMMER CAMP」は、MITメディアラボとの共同研究を契機に、「子どもにこそ、世界の最先端を」をテーマに、自らの興味を発見し主体的に学ぶ場を提供している。これらの取組も「子ども」をESG経営に取り入れた先進的な事例である。