高度情報技術の発達とともに、教育とテクノロジーを融合させた「EdTech(エドテック)」も注目されています。麹町中でも2018年度から、AIを用いたタブレット型教材を導入し、学習を効率化したといいます。

 「読み上げソフトや音声入力が発達した今、読み書きに困難を抱えるディスレクシアの子どもたちが、無理に漢字を練習する必要もなくなりつつあります。スマホやタブレットで、自分の求める知識や能力を身に付けることもできるのです」

 これまで「勉強ができない」と見なされていた子どもたちや、学習障害、ADHDなどの子どもたちが、社会で能力を発揮する可能性も高まっています。「スキルの総合デパートを目指すのではなく、一つの分野でとがった大人に育てる」ことで、現状を変える。麹町中の改革はむしろ、生徒の「優秀さ」に関する従来の評価軸を覆す取り組みだと言えるでしょう。

「つまらない授業」に切り込む 麹町中の新たな挑戦

 工藤校長が思い描く学校教育は、まだ道半ばだといいます。

 「数学を140時間勉強したら2年生になれる、という『履修主義』が問題だと思います。判断基準にすべきは『何ができるようになったか』でしょう。また異学年、子どもも大人も含めた異年齢の生徒が一緒に学べる環境をつくる必要もあります」

 麹町中の課題、それは他でもない授業だと、工藤校長は語ります。

 「率直に言ってつまらないんです」

 教科以外のカリキュラムは子ども自身で学べるよう、『総入れ替え』したものの、教科はまだ手付かずの部分が多く、「授業は学校の『本丸』。子どもたちが主体になるよう、変えていきたい」と語ります。

 この日、工藤校長が登壇したのは、企業関係者らが教育分野の技術革新を議論する「Edvation × Summit」のパネルディスカッション。会場が麹町中だったこともあり、同校の生徒も多数出席していました。工藤校長は、教え子たちを見回し、力を込めて話しました。

 「自律と尊重、そして当事者意識を身に付けた子どもたちを世の中へ送り出し、硬直化した日本の学校現場や、社会認識を根底から覆したい。この子たちがきっと、新しい世の中をつくってくれるはずです」

取材・文/有馬知子