失敗する場が必要 経営権を生徒に委ねる

 校則や頭髪・服装指導も、多くは大人による価値観の押し付けにすぎないと、工藤校長は指摘します。服装や髪形の違いを騒ぎ立て、より本質的で重要な事柄、例えば人権に関することなどを教えられないのは「本末転倒」だとの考えが根底にはあります。

 「麹町中では学校の『経営権』をこどもたちに委ね、保護者にも一部を担ってもらっています。人のせいにせず自分たちで、時には対立も乗り越えて、答えを出してもらうのです」

 当事者意識を持つよう訓練を重ねた生徒たちは「最も重要な目標は何か」を常に意識できるようになると、工藤校長は話します。このため「『今の自分たちは手段にこだわっている。目標に立ち戻ろう』と議論を修正し、合意形成ができるようになります」。

 もちろん、議論がいつもうまくいくとは限りません。工藤校長は「子どもたちが失敗できる場所もなければいけない」と強調します。

 「例えば文化祭でも、子どもたちだけではうまくいかないことがたくさんある。それを経験させて『失敗は悪いことではない』と教え続けることが大事なのです。教員があれこれ指導して素晴らしい合唱を聞かせても、子どもたちには何も積み上がりません」

従順でテスト100点の子が優秀?

 麹町中は東京の中心地にあり、私立の中学受験経験者も多いといいます。「もともとある程度『優秀な』生徒たちだから、自主性に任せていられるのだ」と考える人もいるでしょう。そして、ここでいう「優秀」とは、恐らく「先生の言うことをよく聞く」「勉強ができる」生徒を指しています。

 しかし工藤校長は、大人の言いつけに従う「一見おとなしい子」は、「うまくいかないことがあったとき、自分で解決しない子」に育ってしまう恐れがあると、著書で指摘しています。学力の判断がペーパーテストに偏っていることにも、疑問を呈します。

 「自律した子どもを育てるはずなのに、なぜか学力が重視され、さらに学力のごく一部にすぎないペーパーテストで評価する。生徒たちは暗記さえできれば、ある程度上位の大学に入学できてしまう。これでは、生きる力を高めるという目標は失われてしまいます」