『すずちゃんののうみそ』(岩崎書店)は、静岡県三島市で自閉症がある子ども、鈴乃ちゃんを育てる竹山美奈子さんが書いた絵本です。上編に続くインタビュー下編では、9歳になった鈴乃ちゃんとの日々での課題、ノーマライゼーション、そして絵本を書いたことで気づいた「同じってうれしい。違うって楽しい。」という人間関係の築き方についてなど、竹山さんの思いをお届けします。

■上編:娘の自閉症描く絵本で「皆違っていい」伝えたい

1歳頃までは、定型発達だと思っていた

── 『すずちゃんののうみそ』を書いた当時、保育園の年長さんだった鈴乃ちゃんはもう9歳なのですね。竹山さんはいつごろ鈴乃ちゃんの障害に気づいたのでしょう。

竹山美奈子さん(以下、敬称略) 鈴乃は1歳過ぎくらいまで、定型発達という、健常なお子さんと同じような、育児書通りの順調な育ち方をしていました。自閉症・発達障害がある子どもの特徴として、あやしても全然笑わなかったり、感覚過敏が強く抱っこを嫌がったり、夜泣きがひどくて眠らなかったりして「なぜこんなに育てにくいんだろう」と、早い時期に気づくケースもあるようですが、鈴乃はあやせば笑うし目も合うし、抱っこも喜びました。おもちゃを使ってあやすと、そのおもちゃを私が手にした瞬間に、次の動作を予測したように笑うので、むしろ「うちの子、賢いかも!」なんて、親バカですけど思っていたくらい(笑)。

 それが1歳を過ぎたころから、「バイバイする手が逆手(手のひらを自分に向ける)」「地面の模様が変わると動かなくなる」「つま先立ちで長く歩く」といった、気になる様子が見られるようになりました。

 自閉症の特徴は少し知っていたので、鈴乃の様子がそれに当てはまっているように思えてきて、考え出すと不安にとらわれてしまって。ウェブで検索しまくり、自閉症のお子さんを育てる親御さんが書いているブログを見ては「似ている」とさらに不安に陥いったりしていました。

── 保健師さんや小児科医などに、何か言われたりしましたか?

竹山 私のほうが保健師さんより早く、鈴乃の自閉症を疑っていました。1歳6カ月児健診で相談したのですが、呼びかけても答えないことから心理士さんの相談コーナーを案内してもらって、発達検査をしてもらったのですが、「自閉症の特徴には半分もあてはまらないですし、目は合いますし…。要観察ですね。」と言われるくらい、障害があるとは分かりにくい子でした

── 実際に鈴乃ちゃんの自閉症スペクトラム障害が分かってからの子育ての課題はなんですか?

竹山 一番の課題は、身辺自立とパニック・かんしゃくを減らすことですね。

 9歳の今も、発達年齢は1歳半くらいなんですが、鈴乃自身もこの9年の人生経験がありますから(笑)、言語能力が低くても、不器用でも、周りを観察して、自分なりの行動パターンを習得してきてはいます。ただ、1歳半くらいの身辺自立状態なので、トイレトレーニングも完了していないですし、スプーンやフォークもまだまだ上手には使えず、トング型のお箸が使えるようになったものの、食べ散らかしています。

 後追いもしますし、抱っこやおんぶもまだまだ大好き。身長が139センチあるので、大変ですよ。道端で鈴乃がとつぜん抱きついてきて、その勢いでドーンと倒れてしまうということも。急に抱っこやおんぶをしてほしくなるのは、何かに驚いたり不安だったりして、安心したい精神状態なので、すぐには起き上がらず、道端に倒れたままで「大丈夫、大丈夫だよー」となだめながら落ち着くのを待っているので、はたから見たら「何だろう、あの親子」と不思議に思うでしょうね(笑)。

── 竹山さんが、鈴乃ちゃんにこうしてほしいと伝えるようなときは、どうしているのでしょう?

竹山美奈子さんと鈴乃ちゃん
竹山美奈子さんと鈴乃ちゃん