「いじめ」による子どもの自殺など、陰鬱な事件を聞いて「うちの子は大丈夫だろうか……」と心配になるママ、パパは少なくないのではないでしょうか。

アメリカ・メジャーリーグのシアトル・マリナーズで長年活躍し、今シーズンから日本に帰国、読売ジャイアンツでプレーすることになった岩隈久志投手は、「BE A HERO プロジェクト」といういじめ撲滅プロジェクトを主宰しています。「科学的なアプローチで、再現性のあるいじめ撲滅の方法」があるというのですが、一体どういう内容なのでしょうか。

岩隈投手に単独インタビューを行い、「BE A HEROプロジェクト」設立の狙いと思い、そして3人のパパである自身の子育てについても伺いました。

「いじめはよくない」だけでは、いじめはなくならない

岩隈久志投手
岩隈久志投手

日経DUAL編集部(以下、――) 岩隈さんは現役のプロ野球選手ですが、なぜいじめ撲滅の活動を始めようと思われたのでしょうか?

岩隈久志さん(以下、敬称略) 子どもの心の発達に関する研究をしている「子どもの発達科学研究所」の和久田学先生と知り合ったのがきっかけです。和久田先生から「いじめは科学でなくせる」ということを聞き、「どういうことだろう?」と詳しく聞かせてもらって。そこからですね。

 「こんな素晴らしいことができるんだ! これでいじめが起きない世の中になるなら、もっと多くの人に知ってもらったほうがいい」と思い、僕が発起人となって「BE A HERO プロジェクト」を始めました。

―― 「科学でいじめをなくせる」とは、どういうことでしょうか?

岩隈 いじめについては世界中で研究が進められていて、「正しくアプローチをすれば、いじめは解決したり起きにくくしたりすることは可能」と既に結論付けられているそうです。私たちは頭のどこかで「いじめは何をしても減らないし解決できない」と思い込んでいますが、そんなことは全くないということですね。

 いじめは、単に「かわいそうだ」「いじめはよくない」と思っているだけでは解決しません。いじめに関わる、加害者、被害者、傍観者、それぞれがアクションを起こすことで、初めていじめをなくすことができます。特に大切なのが、いじめの傍観者です。いじめを傍観していたというのは、誰でも一度は経験したことがあるかもしれません。でもその傍観者がいじめをやめさせる行動を起こすと、そのうち57%のケースでいじめが止まることが分かったのです。

 傍観者も、本当は心の中で「いじめなんてやめてほしい」と思っている。思うだけでなく、行動を起こせばほとんどのケースでいじめは止まるんです。行動することの大切さが科学でも立証されているということですね。

―― 「BE A HERO プロジェクト」とは、そうした科学的アプローチに基づいたいじめ撲滅の方法を広める活動ということでしょうか?

岩隈 その通りで、「いじめが起きない社会をつくる」ためのプロジェクトです。僕が監修しているスポーツアカデミー「IWA ACADEMY」を運営するIWA JAPAN、そして、子どもの発達科学研究所、B-creative agencyが中心となって、「BE A HERO プロジェクト」を立ち上げました。発足したのは2017年。今年、やっと3年目に入ったところですね。いじめに遭っている子どもたちのためにも、子どもだけでなく、大人も一緒になって行動を起こしてほしいと願っています。

―― 「BE A HERO プロジェクト」で全国の学校を実際に訪問してお話をされているそうですが、手応えはありますか?

岩隈 昨年、静岡県の中郡中学校へプロジェクトチームで訪問した際、近隣の中郡小学校の5年生と6年生の生徒も参加してくれたんですよ。その後、その子どもたちが小学校に帰って、今度はそれを全校に広げるという行動を起こしてくれました。

 小学1~2年生だと、「それがいじめなのか、いじめじゃないのか分からない」ということがあります。でも、いじめ問題について話し合うことで、理解することができるんです。子どもたちが話し合って、学び合ってくれたのはうれしかったですね。

 また、子どもたちから手紙ももらいました。そこには「いじめがなぜよくないのか知った」「僕はいじめを見ていただけだったけど、これからは正しいことが強く言えるHEROになります」なんて書かれてあって……。感動したし、みんなが学校で実践してくれてありがたかったです。

 学校でディスカッションをすることで、いじめを減らすことができる、いじめが起きないようにできる、と改めて思いましたね。