東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗会長による日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会での発言が女性に対する差別だと批判されました。SNSやメディアでの議論は収まる気配を見せず、この問題は解決したという見解を示していた国際オリンピック委員会(IOC)も一転、森会長の最近の発言は完全に不適切だとする声明を出しました。「スルーされて終わり」が多かった権力者による女性差別発言。これまでとは違う動きを見せている今回について、コラムニストの犬山紙子さんの緊急寄稿を掲載します。

森氏のようなジェンダーバイアスは彼特有のものではない

 「最悪な女性差別発言。でもどうせ一部だけでしか問題視されず、何事もなかったように進んでしまうんだろうな

 東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の会長・森喜朗氏の「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる」という差別発言を受けて、私の最初の正直な感想はこうだった。こう思ってしまうまでに私はこういう発言に慣れてしまっていたし、これまでも女性差別発言はスルーされて終わりであることが多かった。何一つ擁護できない、すがすがしいほどの女性差別だった。

 ジェンダーバイアスについてこういった実験結果がある。

・採用面接時の新人の言動を記録した動画を被験者に見せた。これは男優と女優に演技をさせたもので、演者は発言や振る舞いを互いにできるだけ似せるようにした。すると、男性被験者も女性被験者も、強い要求をした女性の新人と一緒に働きたいと感じる度合いは、同様の要求をした男性の新人に比べてずっと弱かった

・男女の専門職の人たちに最高経営責任者の能力を評価させた。すると、男性の最高経営責任者の場合、多く発言する人はあまり発言しない人より高く評価されたが、女性の最高経営責任者は、多く発言する人のほうが大幅に評価が低かった

(『WORK DESIGN 行動経済学でジェンダー格差を克服する』/NTT出版「第3章 主張する女性が直面するリスク」より引用)

 まさに、森氏の価値観と重なる結果だと思う。そしてそういった価値観の人が権力者に多いと感じる人も少なくないだろう。「女性が会議にいると時間がかかる」というのはあまりに無根拠であり、これらのバイアスを内面化した結果の発言だと感じる。