国内外で大きく取り上げられたことは良い意味での裏切り

 さて冒頭に書いた「どうせ一部でしか問題視されないだろう」との私の予想は良い意味で裏切られた。私が出演している複数の番組でも長尺で取り上げられていた。そこには森氏を擁護する人もいなかった。

 SNSでもたくさんの人が話題にし、今急激に広がっている「Clubhouse」でも日々、森氏の発言やその背景の社会課題について考えるルームが立ち上がって盛り上がっている。これは素直にうれしいことだった。

 女性差別を訴えるとまだまだ「めんどくさい人」「ヒステリック」とレッテルを貼られるような印象があったけれど、声を上げられる世の中になってきている。もちろんオリンピック開催がそこに関係しているからこその注目度だとは思う。それでも、かなりの人が批判していたし、そこには男性もたくさんいた。

 私は#なんでないの プロジェクト代表の福田和子氏らが始めた署名活動「女性蔑視発言『女性入る会議は時間かかる』森喜朗会長の処遇の検討および再発防止を求めます #ジェンダー平等をレガシーに」を支持している。2月4日に立ち上がった署名活動は2月9日現在で15万筆に達しようとしている。

 それでも結局は、逆ギレしたように見える謝罪会見をしただけで辞任という形もなく、収束に向かってしまうかもしれない。これを機に森氏がジェンダーについて学び、男女平等に向けて発信をしていくという形が望ましいと思うが、それもなさそうだ。

古い価値観を持つ人に「やばい」と思わせるためにNOを言おう

 森氏が特別ひどいというわけではない。

「私の会社の社長も同じようなことを言ってた」
「親戚のおじさんがそういうことを言う」
「パートナーもそんなこと言っていた」

 今回の問題を受けてこんな話をよく聞く。何がきついかというと、森氏が持っているような価値観が当たり前のようにまん延していることが、改めて明らかになったことだ。だからこそ、「よくあること」と流さずにNOと言わなければいけないのだ。

 今回、たくさんの人がNOと言ったことで、社会にたくさんいる“小さな森喜朗氏”たちに「あれを言ったらやばいのか」と思わせることはできたのだろうか。それとも「結局、謝れば済む話だ」と思わせてしまったのだろうか。

 自由民主党の二階俊博幹事長は森氏の発言を受けて大会ボランティアが相次いで辞退していることに対し「落ち着いて静かになったら、その人たちの考えもまた変わる」と会見で語った。この発言から森氏の発言への国民の怒りは、「瞬間的で、落ち着いていない人が騒いでいる」という認識なんだろうと感じ、心底落胆した。森氏と同じ価値観なんだろう。森氏の発言がどれほどダメなものか理解されていたら、この発言にはならないはずだ

 現役の女性閣僚が2人しかいない日本でまだまだ私たちは声を上げ続けなければいけない。次の世代の女性に絶対持ち越したくないトピックスの大きな1つだ。

撮影/花井智子 イメージカット/PIXTA


犬山 紙子(いぬやま かみこ)
イラストエッセイスト
犬山 紙子(いぬやま かみこ) 1981年生まれ。物事の本質を捉えた歯切れの良い発言が共感を呼び、ラジオのメーンパーソナリティー、テレビコメンテーター、雑誌、Webなどで活躍中。2014年8月にミュージシャンの劔樹人さんと結婚し、17年1月に女児を出産。現在は劔さんが家事・育児をメインで担当する共働き生活を送っている。志を同じくするタレントたちと児童虐待の根絶に向けた活動「♯こどものいのちはこどものもの」、社会的養護を必要とする子どもたちに支援を届けるプログラム「こどもギフト」にも取り組んでいる。著書に『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社)など。