現代に生きる都会の子どもたちは、多くのストレスにさらされています。脱ゆとり教育、小学校受験&中学校受験、夜遅くまでの塾通い、スマホやPCによる「テクノストレス」、成長するにつれ複雑になっていく友人関係……。親もまた然り。特に共働きの親は、仕事の重圧と日々の家事・育児で心が折れそうになることもあるでしょう。だからこそ心がけたいのが、意識して心身を癒やす時間を持つことです。

自然が持つ癒やし効果は誰もが知るところですが、遠出してキャンプに行ったり、自然豊かな場所に旅行に出掛けたりしなくても、その効果を得られることが分かってきました。近所の公園を散歩したり、家の中に木の家具や観葉植物を置いたり、切り花を飾ったりするだけでも、確実に体が反応し、ストレス軽減効果を得られることがデータでも実証されています。

自然セラピーの第一人者である千葉大学環境健康フィールド科学センター副センター長の宮崎良文教授と、その研究チームの皆さんに詳しくお話を伺いました。

メンバー紹介

宮崎良文さん(右から2番目):千葉大学環境健康フィールド科学センター副センター長・教授。東京農工大学卒業。農水省森林総合研究所などを経て2007年から同センター教授。森林セラピーに関する著書多数。近著に『森林浴』(創元社)など。

宋チョロンさん(一番右):千葉大学環境健康フィールド科学センター特任助教・博士。宮崎教授の右腕としてチームを支える。生後1年1カ月の女児のママ。

池井晴美さん(左から2番目):国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所研究員・博士。木材セラピーについて研究を続けている。今年4月に第一子を出産予定。

趙(チョウ)ヒョンジュさん(一番左):千葉大学環境健康フィールド科学センター自然セラピー研究室特任研究員・博士。フランス人の夫との間に2人の子どもがいる。

編集部(以下、――) 子育て中の家庭にとって、公園はとても身近な存在です。その公園に行くことが自然セラピーとなり、ストレスの低下につながることを聞いて、こちらの研究室をお訪ねさせていただきました。ぜひ詳しくお話を伺わせてください。先生はいつ頃からこうした研究をされているのでしょうか。

宮崎先生(以下、敬称略) 私は、1988年から森林浴をはじめとした自然セラピーの研究に取り組んでおり、長い時間をかけてその効果を実証してきました。

 そうした研究の延長線上で、近年ではチームで「公園セラピー」や「木材セラピー」などの研究にも取り組んでおり、都会で暮らしていても、身近な自然に触れることで確実なリラックス効果が得られることを確かめてきました

 日々の生活の中でも積極的に身近な自然に触れて、「自然とシンクロする」習慣を取り入れていただきたいと思います。

 もともと、現代の人工化・都市化した情報社会は、大きなストレスにさらされやすい状況にあります。人間は本来、700万年かけて自然環境の中で進化した生き物です。このストレス社会ができたのは、産業革命以降と考えられていますが、産業革命からまだ200~300年ほどしかたっていません。たった200~300年で遺伝子が進化することはできないので、私たちの体は今も「自然環境対応型」のままなのです。

 人工化した社会に対応した体ではないなかで、今の人たちは働き過ぎているし、脳が覚醒し過ぎている。これは大人に限ったことではありません。子どもも大人も、一人ひとりに無理が生じているのです。

 だから、自然に身を委ね、人と自然のリズムを同調させることで、快適さを感じる機会を得ることが重要なのです。

―― それが「自然とシンクロする」ということなのですね。

宮崎 その通りです。ちなみに、30年前くらいまでは、「気持ちいい」とか「落ち着く」などといった主観的なアンケートデータでしか、その効果を計測することができませんでした。しかし、技術が発達して、現代では唾液や光を使った脳活動、心拍のゆらぎでリラックス度を測れるようになってきたのです。

 そうした新しい技術を積極的に取り入れて実験を行ってきた結果、近くの公園の中を散歩するだけでも心拍数が低下し、リラックスしている時に高まるといわれる副交感神経も優位になることが認められました。

 年に数回だけ大自然に触れるよりも、常日ごろから自然とシンクロするほうが、親子の心身の癒やしにもつながると思います。

男子大学生18人が新宿御苑(公園)と新宿駅周辺の雑踏の中を、それぞれ14分間同じスピードで歩いたときの心拍数と副交感神経の活動を調べた。新宿御苑を歩いた時のほうが心拍数が低く、副交感神経の活動も高いことが分かった。実験関連の写真やグラフは宮崎先生提供(以下同)
男子大学生18人が新宿御苑(公園)と新宿駅周辺の雑踏の中を、それぞれ14分間同じスピードで歩いたときの心拍数と副交感神経の活動を調べた。新宿御苑を歩いた時のほうが心拍数が低く、副交感神経の活動も高いことが分かった。実験関連の写真やグラフは宮崎先生提供(以下同)
男子大学生18人が新宿御苑(公園)と新宿駅周辺の雑踏の中を、それぞれ14分間同じスピードで歩いたときの心拍数と副交感神経の活動を調べた。新宿御苑を歩いた時のほうが心拍数が低く、副交感神経の活動も高いことが分かった。実験関連の写真やグラフは宮崎先生提供(以下同)
 

宋先生(以下、敬称略): ちなみに春夏秋冬、それぞれの季節でも実験してみたのですが、緑が青々と茂る春夏でも木の葉が落ちる秋冬でも、どちらも同じようにリラックス効果を得られることが分かりました。

宮崎: ただし、夏なら虫に刺されないようにする、冬なら手袋やマフラーできちんと防寒するなどして、「明らかな不快」を取り除いた状況でないとリラックス効果は得られないので、そこはご注意くださいね。

―― はい、分かりました。確かに、道路より公園を歩くほうが心が癒やされる感じはありましたが、こうしてデータで実証されると、よりありがたみが増しますね。これから、子どもと公園に行くたびに、「今、私や子どもの心拍数が低下しているのね」とうれしくなりそうです。自然とシンクロする簡単な方法が他にもあれば、ぜひ教えてください。

次ページから読める内容

  • 家の中に小さな自然を取り入れる
  • 無垢の木材に触れると脳の活動が鎮静化し、副交感神経の活動高まる
  • 自分がどんな状態を心地よいと感じるのか、自覚しておくことが大切

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