東京都が開設した男性の家事・育児参画を応援するウェブサイト「パパズ・スタイル」。厚生労働省が「イクメンプロジェクト」を立ち上げ、家事・育児に積極的な「イクメン」が注目されたのが2010年のこと。それから9年の間に、パパたちを取り巻く状況は大きく変わってきました。必死でこなすうちに、いつの間にかやりがいを見出したパパもいるでしょう。一方で、日々の仕事に追われてなかなかできていないパパもいるかもしれません。

男性の家事・育児を考える上で、近年注目されているのが「名もなき家事」。料理や掃除、洗濯以外にも、買ってきたものをしまう、トイレットペーパーを替えるなど、こまごまと存在する無数の家事を表す言葉です。積み重なると大きな負担となってしまう「名もなき家事」。今回はその見直しに役立つアプリを紹介しています。

「家事」と聞いて思いつくものは? 夫婦の認識の差がトラブルに

 突然ですが、「家事」と聞いて思いつく作業を考えられる限り挙げてみてください。料理を作る、食器を洗う、掃除機をかける、洗濯をする、洗濯物を干す、ゴミ出しをする……このあたりは多くの人が思い付くかもしれません。でも、じつは家事は他にもたくさんあります。

 たとえば「玄関の靴を揃える」「トイレットペーパーを補充する」なども、立派な家事。また、「ゴミ出しをする」という作業の中にも、点在するゴミ箱からゴミを集める、ゴミ袋を変える、ゴミ箱が汚れていたら洗うなど、細かな動作がたくさんあります。

 こうした家事は「名もなき家事」と呼ばれ、近年その存在が注目されています。名もなき家事は一つ一つは小さなことですが、積み重なると大きな負担に。さらに、やっていないほうからは「家事」として認識されておらず、その大変さが伝わりにくいという特徴もあります。

「言われてみれば、トイレットペーパーはいつもちゃんとあるな」「ゴミ出しをやっているつもりだったけど、玄関から集積所に運んでいるだけ」という人は、その名もなき家事を別の誰かがやっているということでもあります。

家事分担を可視化するアプリ「Yieto」

「名もなき家事」が注目されたことで、それを〈見える化〉する取り組みが広がっています。その一つが、家事分担アプリ「Yieto(イエト)」。日常的な家事・育児を約130のタスクに分類し、そのタスクを夫婦どちらが担当しているかを入力することで、家事分担を可視化するアプリです。

「Yieto」ではまず、約130に分類した家事・育児のタスクをどちらが担当しているか入力していく
「Yieto」ではまず、約130に分類した家事・育児のタスクをどちらが担当しているか入力していく

 「妻は細かなタスクが一連の流れとして頭の中に入っていますが、そのすべてを口頭で伝えるのは大変。Yietoがタスクを可視化することで、無意識にやっている作業も漏れなく依頼できます。男性側も暗記したりメモを取る必要なく、タスクリストを見ることでスムーズに作業ができるようになります」(Yietoを企画・開発したフラップの小沼光代さん)

「Yieto」を企画開発したフラップの小沼光代さん(右)、松本章紀さん。フラップはワーキングマザーが多く、自分たちの日常的な視点がアプリに活かされているという
「Yieto」を企画開発したフラップの小沼光代さん(右)、松本章紀さん。フラップはワーキングマザーが多く、自分たちの日常的な視点がアプリに活かされているという

 また、Yietoは入力した家事を「分担マップ」という独自の方法で表示。分担比率をグラフやパーセントで出さないことにも、製作時のこだわりが隠れているそう。

家事・育児の分担マップ。黄色があることでマップが二分されず、対立しがちな家事分担に話し合いの可能性をもたらすデザインになっている。黄色を青にする、赤を黄色にするなど、段階的な家事分担の相談もできそうだ
家事・育児の分担マップ。黄色があることでマップが二分されず、対立しがちな家事分担に話し合いの可能性をもたらすデザインになっている。黄色を青にする、赤を黄色にするなど、段階的な家事分担の相談もできそうだ

 「一つ一つのタスクには頻度や作業時間のばらつきがあるので、それをただタスクの数だけで割合を出してしまうのは不公平。具体的に数字が出ると家事分担の差が明確になり、かえってケンカのもとになってしまう可能性があることも理由です」(フラップの松本章紀さん)

 マップは男性が担当している青色、女性が担当している赤色の他に、両方が担当している黄色も用意。明確に二分しないことで、対立を防ぎ、話し合いにつなげやすくしています。

 「黄色を積極的に増やそうとするユーザーもいます。男性が時々やるだけでも黄色にしてもいいし、半々でないと黄色にしなくてもいい。使い方は家族によって様々です」(松本さん)

 「家事分担が半々なら理想とは限らず、家庭によってベストな分担比率は異なります。Yietoの目標は現状を認識してもらうこと。話し合いのきっかけにしてもらえたら」(小沼さん)

 Yietoは現在女性のユーザーが多いそうですが、男性が使ってみるのも効果的。「こんなにたくさんの家事をやってくれていたのか」という、感謝の気持ちが湧く人も多いそうです。一方で、「もっと家事をやっていると思ったのに……」と、現実との差に落ち込んでしまう男性も。

 「そういう時こそ、少しずつ家事分担を増やしていくチャンスです。仕事が忙しくてこれ以上は難しい場合は、感謝やねぎらいの言葉をかけることで妻の気持ちは楽になります。また、日常の動作の中でできる小さな家事もたくさんあるので、ぜひ実践して習慣づけてみてください」(小沼さん)

 「パパズ・スタイル」では、名もなき家事のチェックシートや、日常の動作の中からはじめられる具体的なアドバイスを掲載。ぜひ、こちらも合わせて読んでみてください。

夫婦だけのToDoアプリで、家事を共有できる「Cross」

実際に名もなき家事を効率的に片付けられるアプリも多く登場しています。こうしたアプリを活用することも、家事・育児分担の不満を解決する方法の一つです。

 「Cross」は、互いの予定や家事などのやるべきタスクを登録して共有できる、夫婦専用のToDoアプリ。「名もなき家事」や、生活の中の些細なタスクを登録することで、ママの負担が可視化され、パパは何をすればいいかが具体的に把握できます。

「やることリスト」ではタスク日付ごとに表示され、パパ、ママの分担も
「やることリスト」ではタスク日付ごとに表示され、パパ、ママの分担も
「やることリスト」ではタスク日付ごとに表示され、パパ、ママの分担も
「やることリスト」ではタスク日付ごとに表示され、パパ、ママの分担も

 作業を登録するのが大変に感じる人や、家事をする気持ちはあるけれど何から手を着けていいかわからないパパには、あらかじめ用意されている「やることセット」が便利。「いつもの掃除セット」など、日常的な家事を分担できるセットから、「災害時の家族のルール決め」「リビングの大掃除」といったものまで多数用意されています。

「やることセット」に登録されているのは「トイレ掃除」「お風呂掃除」のなど。細分化されたタスクが自動登録されます。疑問や要望はチャット機能でカバー。まずは一つのタスクを請け負い、コミュニケーションを取りながら家事をこなしてみては。

■献立を考える手間を軽減! 1週間の献立がぱっと決まる「me:new」

毎日の食事を作るだけでなく、献立を考えるのも立派な家事の一つ。冷蔵庫にある食材を使い切ることを考えながら、バラエティ豊かなメニューを毎日作るのは簡単ではありません。夕飯のリクエストに「なんでもいい」と答えて、ママを不機嫌にさせてしまった経験がある人もいるのではないでしょうか。

 そんな日々の食に関するストレス解決してくれるのが「me:new(ミーニュー)」です。アプリを使うと、最大1週間ぶんの献立を自動で作成してくれます。献立に合わせて買い物リストも作成してくれ、アプリからは作り方や調理時間、カロリーなども確認できます。

最大1週間分の献立があっという間に作れる。変更や削除をタップすれば好きなメニューを選び直せ、郵便番号を登録すれば近所の特売品から献立を考えることも可能(左)売り場ごとに分類された買い物リストが表示される。チェックを付けながら買えば、買い忘れも防止や無駄な買い物が減って食費の節約にも。(中央)料理名や食材の名前でも検索可能。冷蔵庫に残っている食材がある時に便利だ(右)
最大1週間分の献立があっという間に作れる。変更や削除をタップすれば好きなメニューを選び直せ、郵便番号を登録すれば近所の特売品から献立を考えることも可能(左)売り場ごとに分類された買い物リストが表示される。チェックを付けながら買えば、買い忘れも防止や無駄な買い物が減って食費の節約にも。(中央)料理名や食材の名前でも検索可能。冷蔵庫に残っている食材がある時に便利だ(右)
最大1週間分の献立があっという間に作れる。変更や削除をタップすれば好きなメニューを選び直せ、郵便番号を登録すれば近所の特売品から献立を考えることも可能(左)売り場ごとに分類された買い物リストが表示される。チェックを付けながら買えば、買い忘れも防止や無駄な買い物が減って食費の節約にも。(中央)料理名や食材の名前でも検索可能。冷蔵庫に残っている食材がある時に便利だ(右)
最大1週間分の献立があっという間に作れる。変更や削除をタップすれば好きなメニューを選び直せ、郵便番号を登録すれば近所の特売品から献立を考えることも可能(左)売り場ごとに分類された買い物リストが表示される。チェックを付けながら買えば、買い忘れも防止や無駄な買い物が減って食費の節約にも。(中央)料理名や食材の名前でも検索可能。冷蔵庫に残っている食材がある時に便利だ(右)

 調査によれば、1日の献立を考えるのに費やす時間は1日20分。この時間をアプリを使って短縮するのは、大きな時短になります。パパはまずメニューを考えるところからはじめて、次第に料理も手伝えるようになると、ママも喜ぶはずです。

ちょっとした買い物の行き違いを解消する「カイダシ」

ママから「牛乳買ってきて」と言われ、張り切って良いものを買って帰ったら「いつものじゃない」と怒られてしまった経験がある人もいるのでは? もっと詳しく教えてもらえればこうはならなかったと思いつつも、仕事や家事の最中に気付いた買い物の詳細を毎回伝えるのは、それだけで手間のかかる作業でもあります。

 カイダシ」は、そんなちょっとした買い物の行き違いを解消するアプリ。買ってきてほしいものの銘柄や価格、商品の写真などを登録でき、情報は簡単に共有することができます。

アプリを開くと、買い出しを頼みたい商品のリストが表示される。(左)タップすると商品名や価格などの情報を編集・表示できる。男性側がよく買い物を頼まれる商品のメモとしても活用できそうだ(中央)「これ買ってきて」ボタンを押すと、LINEやメッセージなどのアプリで画面を共有。スムーズに買い出しをお願いできる(右)
アプリを開くと、買い出しを頼みたい商品のリストが表示される。(左)タップすると商品名や価格などの情報を編集・表示できる。男性側がよく買い物を頼まれる商品のメモとしても活用できそうだ(中央)「これ買ってきて」ボタンを押すと、LINEやメッセージなどのアプリで画面を共有。スムーズに買い出しをお願いできる(右)
アプリを開くと、買い出しを頼みたい商品のリストが表示される。(左)タップすると商品名や価格などの情報を編集・表示できる。男性側がよく買い物を頼まれる商品のメモとしても活用できそうだ(中央)「これ買ってきて」ボタンを押すと、LINEやメッセージなどのアプリで画面を共有。スムーズに買い出しをお願いできる(右)
アプリを開くと、買い出しを頼みたい商品のリストが表示される。(左)タップすると商品名や価格などの情報を編集・表示できる。男性側がよく買い物を頼まれる商品のメモとしても活用できそうだ(中央)「これ買ってきて」ボタンを押すと、LINEやメッセージなどのアプリで画面を共有。スムーズに買い出しをお願いできる(右)

 情報の伝達を効率化することで、行き違いによるイライラを解消。コミュニケーションも円滑になるはず。妻から買い物を頼まれることが多い人は、ぜひアプリの存在を提案してみては。

 「パパズ・スタイル」では、名もなき家事の他にも男性の家事・育児を応援する記事がもりだくさん。すぐに役立つ実践エピソードや、パパ・ママの不満を深掘りした記事なども掲載されているので、ぜひ覗いてみてくださいね。

(取材・文/小沼理、野中咲希(かみゆ)、写真/ヤマシタチカコ)

■パパズ・スタイルはこちら

■この記事で紹介したアプリはこちら
Yieto:家事分担のモヤモヤを解消する
最長1週間の献立児童作成アプリ me:new
夫婦のためのToDo共有アプリ Cross
ちょっとした買い出しのお願いをスムーズにするアプリ カイダシ