「ひとつの会社でずっと、なんて突き抜けられない」

―― 山口知事は中途採用に積極的なのですね。

佐賀県知事 基本的に、いろんな人がいたほうが組織は健全だし、その中で議論をして決めていってもらいたい。考えが固いリーダーがいるところで人生を捨てることはないです。大事なのは割り切ることで、思い切って転職をすればいいと思います。男性でも、女性でも。もっとも大事なのは家庭。家庭を大事にすることがすべての原点です。昔言われていた「24時間戦えますか」は、今は必要ないです。私たちは、小・中・高・大とずっと学歴社会の中で偏差値教育を受けてきて、会社もそうやって決めてきました。しかし一度社会人になって中途社員になってみると、そんな意識はなくなりますよね。むしろ、だんだん自分の人生がより良くなればいいんだ、と価値観が転換してくる

―― しかも寿命はどんどん長くなっている。ひとつの職業では続かなくなってきます。

佐賀県知事 そうなんです、ひとつの会社にずっといようなんて思うと、突き抜けられないと思いますよ。「いずれほかの仕事をするんだろう」という感覚で働くほうが自然だと私は思います。

―― 知事がそういうロックな考えでいらっしゃると、佐賀県は魅力的になりますね。普通は、県庁職員さん=手堅い、お堅い、というイメージが強いですものね。

佐賀県知事 堅い面も必要だとは思いますが(笑)、佐賀県庁にはそうじゃない人が多いかもしれないですね。2~3日前のニュースで、他の自治体が定員割れし てしまって大変だと聞きましたが、佐賀県庁はそういうことはないです。以前だったら福岡県庁と佐賀県庁だったら、福岡県庁を選ぶ人が多かったかもしれない。でも、今はむしろ佐賀県庁だから選ぶという人が増えているのかもしれない。

「佐賀県民が、佐賀県民であることを誇りに思うことを大切にしている」と山口氏
「佐賀県民が、佐賀県民であることを誇りに思うことを大切にしている」と山口氏

―― 佐賀県の特徴って何でしょうか?

佐賀県知事 特徴というか、私が大切にしたいことは、佐賀県民が佐賀県民であることを誇りに思うことです。佐賀は最高なんだ、とみんなが感じられるようなことをやっています。佐賀県は、子どもの数は今でもとても多いです。だから「子育てし大県(たいけん)」という取り組みもやっているのですが、一番の問題は、その子どもたちが流出していることです。結局、東京や大阪など、県外就職率が高くなってしまう。たとえば、工業高校を卒業しても、6割は県外に出ていってしまう。県内はこんなに人が足りなくて困っているというのに。だから、そういったところも含めて佐賀県自体が自立的に回っていくようにしているところです。

―― 地方都市は産業が少ないから、大都市に出てしまう人が多いかもしれません。

佐賀県知事 産業もより魅力的なものを自分たちで作れるようにしたいと思っていまして、「さがデザイン」という考え方で進めています。これは今年度グッドデザイン賞のベスト100を受賞したんですが、基本的にすべての政策にデザイナーとクリエイターに関わってもらっています。普通、県庁の仕事では監査が入って精査されますが、政策課のさがデザイン担当では、政策のコンセプトがしっかりしているのかどうかなどを、事前にデザイナーやクリエイターの人にデザイン監査に入ってもらっています。そういう部署があるんですよ。

―― それは、具体的にどういうプロジェクトですか?

佐賀県知事 たとえば、「アート県庁」というプロジェクトがあります。県庁をもっと色々な人たちに集まって見てもらおうというものです。今、県庁の屋上でプロジェクションマッピングをしたり、旧知事室や来賓室に子どもたちが集まって、佐賀県のことを勉強したりするようになっています。そういうことに全部クリエイターを入れないと、旧知事室も単なる知事室の保存になってしまう。まったく魅力のないものですよね。いわゆるダサいやつです(笑)。

―― クリエイターが入った県庁見学。それはカッコいいですね!

佐賀県知事 「さがデザイン」のプロジェクトのひとつです。これはほんの一部ですけれど。デザインの視点で、いろんな政策を心地よくしようと思っているのです。