男性の「ワンオペ稼ぎ」から夫婦の「チーム稼ぎ」へ

大庭 また、ソニーには家族を大切にする企業文化もあり、もう一人の創業者の井深大が1959年に「ランドセル贈呈式」を始めました。今でも毎年、社員の子どもは小学校入学前に会社に来て、社長から一人ずつランドセルを贈られます。

 その際は親の職場も訪問するのですが、普段プライベートなことを話さない男性社員が子どもを連れながら表情を緩めている姿を見て、周りも何となく親近感を抱きます。そうやって家族のことが分かると、急に子どもが熱を出して帰宅するといったときも、周りの理解を得やすくなるのだと思います。

 他にも、部署単位でソニーらしい働き方を実現することを目的とした「じかんプロジェクト」という労働時間改善プログラムも進めています。時間効率を高めるため、テレワーク制度、ノー残業デーの徹底といったことも行っています。

「イクメン企業アワード」グランプリに選ばれた取り組みについて語るソニーの大庭薫氏
「イクメン企業アワード」グランプリに選ばれた取り組みについて語るソニーの大庭薫氏

羽生 ありがとうございます。ここで白河先生に、世間一般の状況をお聞きしたいと思います。いわゆるイクメン推進企業といわれるところは、どのような取り組みをしているのでしょうか。

白河桃子氏(以下、白河) 多くの企業が働き方改革の目的の一つにしているのが人材獲得ですが、女性の活躍推進や、そのための両立支援には既に着手しています。これからの女性が求めているのは男性の両立支援。そこをやると一歩抜きんでるのではないかと思っています。

 人口ボーナス期からオーナス期に移るにあたって、均質な人が長時間働くというやり方から、多様な人が多様な場所と時間で働くダイバーシティが起きています。そのときに女性だけが一人で仕事も家事育児もこなすのは大変なので、「ワンオペ育児」から「チーム育児」へと変わっていく。一方で男性も、一人で一家の大黒柱を担う「ワンオペ稼ぎ」ではなく「チーム稼ぎ」になっていく。これが働き方改革の流れになると思っています。

 また、よく企業の皆さんが「うちの社員、指示待ちなんだよね」とおっしゃいますが、働き方改革を推進することによって、他律的な働き方から自律的な働き方に変わっていきます。働き方改革は、残業削減やテレワーク制度などに矮小化されて捉えられていることが多いですが、実はこういった効果が本質的なところではないかと思っています。

羽生 働き方改革は経営戦略だということですね。

白河 もちろんそうです。ですからはっきり言うと、やりたくないところはやらなくていい。働き方改革は経営者の覚悟を問うものだと思っています。ソニーさんは経営者がしっかり発信して、人事と両輪で取り組んでいるところが素晴らしいです。