昨今注目を浴びているオランダの子育て・教育についての書籍を日経BPから発行しました。オランダ人男性と結婚しオランダに移り住んだイギリス人女性のミッシェルさんと、アメリカからオランダへ移住したリナさんの共著『世界一幸せな子どもに親がしていること』(1月22日発売)は、「子どもが世界一幸せな国」(2013年のユニセフの調査より)で子どもを育てる実情を、驚きや戸惑いを持ちながらも素直に受け入れていく様子が書かれています。著者の一人であるミッシェルさんを、同じく日本からオランダへ移住し外国人視線でオランダ流メソッドを日々観察しているライター・吉田和充さんがインタビューしました。

初めは摩訶不思議だったオランダの子育て

吉田和充さん(以下、吉田) ミッシェルさんはオランダ在住歴が11年で、13歳の男の子と11歳の女の子をお持ちです。もうすっかりオランダ要素に染まってきた、という感じでしょうか?

ミッシェルさん(以下、ミッシェル) 今でこそ、ですね。でもやっぱりイギリスとはとても多くのことが違うので、最初は色々なことが不思議でした。奇妙に感じたこともありましたが、10年も住んでいたらすっかり慣れたし、そもそもオランダの子育ては素晴らしいと思います。なので、子育てはすっかりオランダ式の考え方になっています。

吉田 私も子育てを理由にオランダに移住してきましたが、まだ2年経っていないので、慣れないことや不思議なことにたくさん遭遇します。例えば、本書帯には「朝ごはんに好きなだけチョコレートが食べられる」「宿題がない」「受験競争がない」「自由に遊ぶためのじゅうぶんな時間がある」「いつも大人に話を聞いてもらえる」「反抗期がない」「どんなに小さくても一人前として扱われる」…と、イギリスや日本の親が見ると「え~!?」と思うような事柄が並んでいます。これらは実際、ミッシェルさんも驚いたことでしたか?

ミッシェル はい。もう、それはそれは驚きました。でもオランダは、階級社会のイギリスと違って、社会が非常にフラットでのびのびしているので非常に気楽です。例えばイギリスでは、ちょっと外で子どもだけで遊ばせていたりすると、「親が子どもの管理を怠っている」ということで警察に通報されたりするんです。それがたとえ、自分の家の前であっても、バルコニーであってもなんですよ。

 子どもは教室の中で自分たちの時間を楽しみ、学校が終わると外で元気に遊ぶ。子どもが楽しい時間を過ごすのはたしかに私たち親の望むことだ。しかし、そうは言ってもオランダの親はなぜこんなにも、子どもの成績を心配しないで遊ばせていられるのだろうか?

 私はその答えを探るべく、まずは、毎月行われている読書会のグループメンバーにインタビューしてみた。読書会の中で私は唯一の外国人で、ほかの7名のお母さんたちは、ランダムに選ばれた人たちなので、リサーチ対象としてうってつけだった。彼女たちの子どもの年齢は6歳~12歳。私は自分が幸せな子ども時代についての本を執筆する仕事をしていることを説明し「オランダの子どもがなぜ幸せなのか」と聞かれて頭に思い浮かぶことを話してもらった。

 「幸せというのは、何かをたくさん持っていることではなく、自分の持っているものや自分の置かれている状態を受け入れることなんじゃないかしら。私たちの子どもは、自分が世界で最高のサッカー選手になれないことをちゃんと受け入れているの。きっと、立ち直りが早いんだわ」と一人のお母さんが言った。するともう一人が「オランダの子どもは会話に参加して自分の意見を発言できる場があるわ」と言った。

 続いて3人目が、「親がパートタイムで働くから子どもと過ごせる時間がたくさんあるのよ」と言った。そしてほとんどのお母さんたちが迷うことなく、「オランダの子どもたちは外に出て、街中どこでも好きなように遊ぶことができるからね」と、口を揃えて言った。

(『世界一幸せな子どもに親がしていること』P51~52より)

オランダには起業家タイプが多い

吉田 日本人からすると、イギリスとオランダだと距離的にも近いし、同じヨーロッパの国なので、そこまで違いがあると想像できないです…。もしかしたら、日本とオランダの違いと同じくらいの違いがあるかもしれませんね。

ミッシェル 基本的にイギリスは、子どもと親の関係がオランダのようにフラットではありません。そもそも階級社会ですから、その影響が子育てにも出ます。イギリスの親はやっぱり権威的というか、常に親が決めたルールを守ることを子どもに要求します。だから、子どもが10代になると言うことを聞かなくなってきて、親との関係が悪くなるというのが定番なんです。

アムステルダム市内の公園。池にはうっすら氷が張っている
アムステルダム市内の公園。池にはうっすら氷が張っている